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 日本には、古くから「和算」と呼ばれる独自の算術がありました。江戸時代には多くの人々がこれに親しみ、吉田光由の算術書『塵劫記』は、一家に一冊はあるほどの大ベストセラー&ロングセラーになったそうです。江戸の人たちが生活に必要な知識として学び、また楽しんだ和算の世界を、和算研究家の小寺裕先生に教えていただきました。和算ワールドの面白さに触れれば、算数、数学をもっと身近に感じられるのではないでしょうか。

算数・数学が苦手なら「鑑賞」から始めよう

 

数学が大好き! でも試験勉強は大嫌い

 和算の存在を知ったのは中学生の頃です。もともと数学が大好きで、中学生向けに書かれた数学史の本などを読み漁っているうちに、江戸時代に和算という日本独自の算術があったことを知ります。数学の問題や解答を書いた絵馬「算額」の存在を知ったのもこの頃です。中高校生時代には、東西の数学者のことや和算の歴史などを熱心に調べていました。高校生の時には、雑誌*『大学への数学』(東京出版)に和算の問題を現代の方法で解いたものを投稿して、それが掲載されたこともあります。
  そんな私でしたが、試験や受験のために数学を勉強することは苦手でした(笑)。数学はあくまで楽しむもの、好奇心をかき立てるものだったのです。また、私にとって数学は、絵画を鑑賞することと似ています。絵を見て美しいと感動するように、数学の図形や定理などを鑑賞して「美しいな、なるほどそうなるのか、こんなことが成り立つのか!」と感動するのです。算数や数学が苦手な人は、まず図形や定理、数式などを鑑賞することから始めてほしいと思います。なるほどと思えたら、しめたものです。そこから「なぜ、こうなるのだろう?」という疑問が生まれた時、それを追及していけばいいのではないでしょうか。数学に対して良い思い出ができれば、興味が湧き、次々と算数や数学のことを知りたくなるはずだと私は思います。
『大学への数学』…1957年創刊の月刊誌。略称は「大数」。大学受験での数学を取扱い、東大や京大の理系学部志望者を中心
  に、大学生、大学院生、中学や高校の数学教員などにも愛読されている。

 

小説『算法少女』復刊へ

 数学が好きで、教えることが好き、そして子どもが好きでしたので、数学の教員になることは、ごくごく自然のなりゆきでした。教壇に立つようになると、生徒たちから「この定理は、誰がいつ、どうやって発見したのですか?」という質問が多く寄せられました。中には即答できず歴史を調べなければならないものも。こうした生徒たちの質問に答えるため様々な定理の背景を調べているうちに、再び和算にたどり着きました。和算のことをもっと知りたいと思い、江戸時代の資料をあちらこちらから探し出し和算家について調べたり、実際に和算を解いてみたりしましたね。和算の研究会にも入り、様々な方と出会い、さらに詳しく調べるようになりました。数学の教員としての教養の一つであるという意識もありましたが、それ以上に数学が好きで、数学のことなら何でも知りたいという好奇心と意欲があったのです。気づけば、和算の世界にすっかり魅了されていました。
  授業でも和算のことを話したいと思い、注目したのが遠藤寛子さんの小説『算法少女』でした。江戸時代に出版された同名の和算書をもとにしていて、父である千葉桃三から算法の手ほどきを受けていた町娘あきが、久留米藩主の姫君の算法指南役を、ライバルの少女と競い合うというストーリーです。和算が江戸の人々の間にいかに広まっていたのか生き生きとつづられているだけでなく、実在した和算家が登場したり、和算の問題が載っていたりと、実に面白い。これならば中学生も和算を楽しめるだろうと思い、教材に用いることにしました。
  ですが、この時『算法少女』は絶版になっていたのです。どうしても復刊してもらいたいと思い、いろいろと手を尽くしました。数年後、ちくま学芸文庫から復刊を果たした時は、本当に嬉しかったですね。この頃でしょうか、ちょっとした和算ブームも起こりました。『算法少女』は現在でも多くの人に読まれ親しまれています。数学が苦手な人、得意な人もぜひ手に取ってほしいですね。

 

和算が大好きだった江戸時代の人々

 

多くの人々に親しまれた和算

 江戸時代、人々にとって和算は楽しむもの、日常生活に寄り添ったものでした。「数学といえば試験勉強で悩まされた」という印象を持つ人が多い現代とは、まったく逆ですね。和算は算術とも呼ばれたように、小難しい論理を考えるものではなく、解答を得るための術でした。人々は術を扱うことを大いに楽しみ、かなりの難問にも挑戦していたのです。
  一般に和算は、関ヶ原の戦いがあった1600年以降の日本の数学を指します。それ以前は、和算書としてきちんと記録されているものが残っていません。現存する和算書の中で、作者と出版年が判明しているものは、毛利重能という人が書いた『割算書』です。1622年に出版されました。関ヶ原の合戦から22年後、戦国時代の幕がおり世の中が経済の時代へと動いていった頃です。この毛利重能が、京都で「割算天下一」という看板を掲げて和算の塾を開きました。彼は兵庫県西宮市の出身で、同市の熊野神社には石碑もあります。そのすぐそばには毛利重能を祀る「算学神社」も建ち、受験生が合格祈願に訪れるのですよ。
  さて、毛利重能の塾にはたくさんの優秀な人物が集まります。その一人が、江戸時代の大ベストセラー『塵劫記』を書いた和算家・吉田光由でした。出版されたのは『割算書』が出た5年後の1627年です。『塵劫記』では絵を豊富に用いて和算の問題を載せています。これが江戸時代一家に一冊はあったというのですから、当時の文化水準がいかに高かったかうかがい知れますね。

 

木の高さを導け

 これは『塵劫記』に掲載されている有名な問題の一つです。「木のながさをはながみにてつもる事」と問われています。「はながみ」とは鼻紙、今でいうところのティッシュペーパーです。つまり、ティッシュペーパーを使って木の高さを導く方法が、ここでは示されています。
  ここでは三角形の相似を利用します。『塵劫記』に書かれた解説には、「鼻紙を二つに折り、直角二等辺三角形を作る。図の侍がしているように角に小石をぶら下げ、斜辺の延長線上に木の頂点がくるように移動する。移動した地点から木の根本までの距離をはかると、七間(約12・7m)あった。ここで侍の居丈(座っている時の背の高さのこと)が三尺(約0.9m)ほどあるので、これを足してやれば木の高さになる」と記されています。現代の数学であれば、相似の証明問題などを問われるところ

ですが、このような実践的なクイズ形式の問いであるところが、和算らしいですね。このような実践的なクイズ形式の問いであるところが、和算らしいですね。
 

 『塵劫記』には、この他にも「盗人算(過不足算)」や「ねずみ算」など、私たちが学ぶ算数・数学とも共通する問題も掲載されています。

 

算額は江戸版のブログだった?

 現在、全国の神社には算額と呼ばれる絵馬が残っています。江戸時代、人々は和算の問題や解答を絵馬に描いて神社に奉納しました。古代より、日本には絵馬を奉納する習慣がありました。もともとは本物の馬を捧げていたのですが、それでは大変ですので馬の絵に変わったのです。絵馬を奉納することは、神様に願い事をしたり感謝をしたりする意味がありました。そこで、和算が大好きな江戸の人々は、自ら考えた問題や解答を絵馬として奉納し、「こんな問題を作ることができました。解くことができました。ありがとうございます。もっともっと和算の腕が上がりますように」と祈願したのでしょう。一方で、自分はこれだけの問題が解けたぞと自慢する意味もあったと思います。和算の師匠を讃える算額もありました。こうして考えると、算額は、現代でいうところのブログのようなものだったのではないでしょうか。
  算額にはカラフルで美しいものが多く、ただ眺めるだけでも楽しめます。描かれているのは図形の他、和算の塾の様子を描いたものなど多彩です。各地に残っていますので、機会があれば実際に見に行っていただきたいですね。

 

木の高さを導け

 奈良県磯城郡の御菓子司「たばや」では「算額最中」を販売しています。「たばや」店主の先祖である森内弥三郎は、江戸末期から明治の初めにかけて、算術の指導や研究をしていました。弥三郎は、算術の修行の精進達成を感謝し、大和郡山市にある庚申堂に算額を奉納しました。「算額最中」の文様は、弥三郎が奉納した算額に描かれた図形を写したものです。この最中を食べれば、学力アップできるかも?

 

算額作りに挑戦してみよう

 近年、朽ちてしまった算額を復元したり、新たに算額を作って奉納したりということが行われています。長野県の臨川寺には高校生が本格的に復元に取り組んだ算額が奉納されていますし、今年の3月には滋賀県の三井寺(園城寺)に同志社中学の生徒が算額を奉納しました。
  算額を作る時、当然のことですが問題を作らなければなりません。問題を解くことはあっても、問題作りはまず経験しないですね。だからこそ、少しでも興味があれば、ぜひオリジナルの算額作りに挑戦してもらいたいと思います。問題文は現代の言葉で構いません。また、教科書や参考書の問題を参考にするのもいいですが、丸写しはだめです(笑)。皆さんなりの工夫を加えて問題を作りましょう。難しい問題を作ってやろうと意気込むのもいいですが、感じたまま素直に、面白いと思えるようなものを作ることができれば、算数・数学の楽しい思い出になるのではないでしょうか。絵や図を描くことを楽しむ目的でも十分だと思います。

 

「算額をつくろうコンクール」

 和算を普及する会「NPO和算(WASAN)」では、毎年「算額をつくろうコンクール」を実施しています。
  算数・数学が得意な人も、苦手な人も、絵を描くのが大好きな人も、和算に興味がある人も、自由な発想で算額作りにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。次回(第16回)の申し込み締め切りは2014年1月16日です(必着)。応募の決まりや過去の入賞作品などは、NPO和算のホームページ(http://www.wasan.org/event/)でチェックしましょう。

 

 

タイムス9月号 P.7 問2 解説

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