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2つの力を育てる

最近、大学改革や高大接続改革についてのニュースを耳にする機会が増えました。知識の詰め込みに陥りがちな高校教育を変え、グローバル社会に対応できる力を身につけさせようという動きが、いよいよ具体的になってきています。また、「アクティブ・ラーニング(能動的学習)」が盛んに叫ばれているように、課題を発見する力、課題解決のために主体的に、また協力して学ぶ力も求められています。
これだけを読むと、難しく感じられるかもしれません。しかし、その根本は「コミュニケーション力」と「読解力」の2つの力にあるのです。今回、制度やカリキュラムなどの大改革を経て、現在は難関大学合格者を多数輩出する広尾学園を訪問してきました。先生との対談を通して、学力アップに欠かせない2つの力を養うためのヒントを探ってみます!

 

ポイントを的確に伝える力

金子先生「広尾学園の前身である順心女子学園の時代、生徒数が急激に落ち込んだ“どん底”の時期がありました。定員1500人でありながら、2003年には500人を切る状況に。閉校を考えなければならないところまで、追い込まれました」
伊藤「その“どん底”の時期からわずか10年足らずで、劇的な変化を遂げられたことに驚きを隠せません」
金子先生「改革に取り組み、試行錯誤を繰り返した結果が、現在の学校運営やカリキュラムに活かされています。特に本校では、コミュニケーション力を鍛えるという意味においても、生徒によるプレゼンテーション(プレゼン)指導に力を入れています。
指導は中学入学後すぐに始めます。高校卒業まで、じっくりと時間をかけてプレゼン力を磨きます」
伊藤「プレゼンを繰り返すことで、コミュニケーション力が鍛えられるのですか?」
金子先生「コミュニケーション力と聞くと、多くの方が、スムーズに会話ができること、話し合いを円滑に進められることなどといった能力を思い浮かべると思います。
しかし、コミュニケーションには、もっと根本的な可能性がある。その可能性とは、自分の考えを、ポイントを絞って的確に伝え、相手を納得させる能力です」
伊藤「それは、記述問題や小論文問題にも必要な能力ですね」
金子先生「そうですね。今話題の大学入試改革の意図に沿った取り組みだとも言えるでしょう。生徒たちは、プレゼン力を磨くことで、大学進学後、入試時の学力以上の力を発揮できるようになります」

広尾学園のプレゼン指導

伊藤「プレゼン指導について、御校ではどのように取り組まれているのでしょうか。評価システムは整えておられますか?」
金子先生「評価システムは確立していません。より高度なレベルへと向かう柔軟性が失われるからです。指導方針だけは決めています。私たち教員は、現代社会がどのような人材を求めているか、常に把握していることが何より重要だと考えています。
プレゼンが注目されるきっかけとなった動画に、アメリカの*『TED Talks』があります。登場する一流の講演者たちは、巧みな話術で聴衆を巻き込みながら論を展開していきます。ウィットに富んでいて、スマートで、かっこいいプレゼンです。しかし、私たちは、表面上のプレゼンスタイルについては重視していません」
伊藤「かっこいいだけがプレゼンではないということですね。先生方が重視されているというのは、先ほど話題に出た“自分の考えを、ポイントを絞って的確に伝え、相手を納得させる能力”でしょうか」
金子先生「その通りです。表面上のかっこよさは、生徒の多くが追究します。しかし、中には“いかにかっこよく論ずるか”を求めすぎて、形ばかりになってしまう生徒もいます。私たちは、たくさんの資料を読み込み、理解し、事実の裏付けをしてプレゼンに臨むように指導をするのです。ネット上の情報を簡単に切り貼りして、上辺だけでまとめることがないように教えます。そうした作業の中で、生徒は自身の考えをまとめ、伝えたいポイントを絞って発信することができるようになるのです」

伊藤「プレゼンを論理的に展開するために、膨大な資料を理解する読解力も必要ですね。指導はいつされているのですか?」
金子先生「各教科の担当教員が、授業等でプレゼンの機会を持つように努めています。個人で選んだテーマについてプレゼンをする時もあれば、こちらがテーマを設定してグループで準備を進める時もあります。最大規模のプレゼンの場は文化祭『けやき祭』です。大勢の聴衆を前に、生徒が一人きりで話を進めていかなければなりません。中学生の時はたどたどしいところがあっても、高校生にもなると高いレベルで意見を発信できるようになります」

教える側の意識改革が必要

伊藤「御校は、どのようにして現在の教育体制を築いてこられたのでしょうか」
金子先生「冒頭でお話しした“どん底”の時代。私たち教員は、自分に都合が悪いことには向き合おうとしていませんでした。知識を持っている大人が子どもに教育を施すという、上下関係の意識が働いていたことも否めません。一方的な教育で、生徒の未来を考えていなかったわけです。次第に教員たち自身も苦しくなりました」
伊藤「塾の運営にも言えることですが、結果を出すためには、生徒一人ひとりにしっかりと向き合う必要がありますね」
金子先生「そうです。それで、学校改革にあたり、私たちは、まずあらゆる難関大学の入試の過去問題を解きました」
伊藤「入試問題を解かれたのですか」
金子先生「それぞれの担当教科の問題を解きました。難問の中には解けないものもあり、恥ずかしかったですね。それまでの受験対策は、指定校推薦枠などに頼っている面がありました。だからこそ、教員の意識を含む体制の改革が必要でした」
伊藤「その改革が成果につながったということですね」
金子先生「教員の意識が大きく変わりました。理科の実験道具を買い替えた際も、高校教育レベルを超えた高価で高性能の物を入れたいと担当教員が提案したことがあります。はじめは反対の声も多かったのですが、生徒たちに“本物”を見せたいという担当教員の熱意を受け、最終的に実現。それがきっかけとなり、本校の『医進・サイエンスコース』設置につながりました。6年間を通して、本格的な研究に取り組むコースです」
伊藤「生徒たちは、どのようにして研究を進めるのですか?」
金子先生「世界中の研究者が、まだ取り組んでいないテーマを探し出して研究をします。世界中の膨大な論文を読み込み、最先端の研究内容を把握しなければ、未知のテーマは設定できません。生徒たちは、日本語に訳されていない論文にも果敢に挑戦していますよ」
伊藤「高校のカリキュラムでありながら、大学の学部生に勝る取り組みです」
金子先生「私たちは、生徒に“本物”を体験させることを何より大事にしたいのです。各分野の第一線で活躍している方々の話を聞いたり、最先端の研究施設を訪れたりする機会を設けているのも、その思いからです。英語教育にも力を入れています。本校の『インターナショナルコース』では、高度な英語力を持つ帰国子女と、日本の小学校から進学してきた生徒が共に学んでいます。 日本で育った子どもたちは、帰国子女の高度な英語力、様々な国の多様な価値観に触れ、成長していきます。“本物”を体験することが、何よりも効果的なのです」
伊藤「本格的な設備やカリキュラムをただ整えるだけではだめで、先生方の“本物を 見せたい”という熱意があったからこそ、現在の進学実績につながったのですね」

情報の選別ができるかどうか

伊藤「最近の子どもたちについて、語彙力が乏しくなっている、SNSでの短いテキストや絵文字、スタンプの多用に慣れてしまってコミュニケーション力が落ちているなどと評する声があります」
金子先生「それは、私たち大人が、“コミュニケーション”という言葉に凝り固まった先入観をあてはめて、子どもたちを見ているからではないでしょうか。子どもたちからすれば、大人は話が通じない、コミュニケーション力が足りないという評価になると思いますよ」
伊藤「なるほど。一方的な価値観を押し付けてはいけないということですね。社会状況も常に変わっていますから」
金子先生「日本の子どもたちに足りないとすれば、戦略的、自主的な学習ではないでしょうか。例えば、海外の一流大学に合格しようと思ったら、勉強だけでなく、スポーツやボランティアなどの実績も必要です。3年間を通して、戦略的に動かなければなりません。日本では子どもたちのほとんどに、そういった姿勢が見られない。勉強は与えられるものだと思っています。それは、日本の教育にも問題があるからなのですが」
伊藤「日本の若者は、情報に対しても受け身の印象ですね。インターネット上に溢れている情報を、事実を確かめずに信じ、躊躇なくSNS等で拡散してしまいます。問題行動を撮影して画像を公開、逮捕や訴訟につながったニュースもありました」
金子先生「情報を正確に選り分ける能力は、今後ますます必要になってくると思います。仕事とプライベートで扱う言葉や情報を、しっかり分けられることが重要です。本校では、生徒一人ひとりが学校用のパソコンを所持しています。そこにはプライベートのメールや画像などは入っていません。生徒たちは、勉強とプライベートのツールを、しっかりと使い分けることができます」

伊藤「情報を正しく選別するためには、情報を読み込む力が必要ですね。そういった面から考えても、御校が取り組まれているプレゼンは、今の時代に必要とされている教育ですね」
金子先生「そう言えますね」

 
 

伝統にとらわれずに進化

1918(大正7)年設立の順心女学校を源流に持ち、まもなく創立100周年を迎える伝統校です。9年前に広尾学園に改称、共学化。大きな改革を経た後も、伝統にとらわれることなく、教員の“次世代に必要な教育を創造していく”意欲とパワーを、カリキュラムをはじめとした取り組みに反映することに注力しています。今の日本の学校教育を、その長い歴史の中でもめったに巡り合えない大きな転換期を迎えているととらえる同校。教員の都合や学校の都合で教育活動を考えるのではなく、生徒の未来を最優先させるということを基本方針として、よりハイレベルな教育環境を目標に進化を続けています。
例えば「医進・サイエンスコース」では、中学入学時より本格的な研究に取り組めるよう、実験室の設備やサポート環境を整えています。生徒たちは“本物”に触れることで、知的好奇心が刺激され、自主的に学ぶ姿勢が身につきます。

生徒の成長が実績に

スペシャル対談でも紹介しましたが、広尾学園では、すべてのコースで生徒自身によるプレゼンテーションに継続的に取り組んでいます。その他、授業の中で、必要に応じてディスカッションも行います。生徒たちは、プレゼンやディスカッションは、あくまで自身の考えを伝え、納得させる手段であることを自然と理解していきます。中でも「インターナショナルコース」では、英語を母国語とする教員による、意見交換や意見発信の指導が特長です。コースの生徒たちは、国内外の様々な大会やコンテストに参加、日頃の成果を発揮しています。世界中から3000名以上の生徒が参加する、アメリカ・イエール大学での大会でも、優秀な成績を収めました。
生徒自身が、日本の教育のレベルを超えていけることを信じて、学校側は設備やサポート体制を整えることに力を注いでいます。

 
 
 

他者とともに、他者のために

1888(明治21)年、英国国教会(聖公会)エドワード・ビカステス司教によって開かれた香蘭女学校。創立以来、日本の伝統文化を大事にしながら、キリスト教の倫理を持ち、豊かな教養と品性を持つ女子を育んできました。毎年11月23日に開催されるバザーは今年で122回目を迎えます。生徒はもちろん、校友生(卒業生)も参加して、一人ひとりが制作した品物を販売、売り上げを様々な施設に寄付しています。「他者とともに、他者のために」の精神を大切にする同校を象徴する行事です。

幅広い分野の文章に触れる

香蘭女学校では、国語の授業で全員が「読書ノート」に読書記録をします。それぞれが選んで読んだ本はもちろん、図書室のおすすめ本などについての感想を書き込む取り組みです。1年生は同校の卒業生である上橋菜穂子や黒柳徹子の著作を、2~3年生は卒業論文を意識したジュニア新書を読むなど、各カリキュラムと連動した読書も行っています。夏休みの読書感想文についても丁寧に指導します。中等科1年生は、選択した課題図書ごとにグループをつくり読書会を行います。深く読み込む作業を経て、冬休みに感想文の書き直しを行うことで表現力に磨きをかけます。また、中等科は、「3分間スピーチ」も行います。聞き手となった生徒は、評価表を記入してスピーチした生徒にフィードバック。こうした読書やコミュニケーションを通して、深い理解力、豊かな表現力などを養っています。

また、今年は、高等科の生徒たちが東京新聞主催の「第13回新聞切り抜きコンクール」に参加しました。班で話し合いを重ねながら作品を完成させました。結果は、高等科3年から優秀賞と佳作が、高等科1年から入選の班が出ました。新聞記事に書かれた内容から、事実の確認をしたり、要約をしたり、タイトルを考えたりする中で、記事の理解が深まり、読解力を養ことができたと思います。

 
 
 
 

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