2023年9月号特集① 文化庁って何するところ?

 2023年3月、文化庁が東京都・霞が関から京都市に移転し、業務を始めました。中央省庁が地方に拠点を移すのは初めてのことです。文化庁はその名の通り、日本の文化全般を扱う行政機関です。どのような仕事をしていて、なぜ移転したのでしょうか。省庁の仕組みや文化庁の役割を知って、日本の文化を改めて見直してみましょう!

行政機関の仕組み

 文化庁は文部科学省に属しています。まずは、日本の行政機関の仕組みと文部科学省の仕事内容を確認しましょう。

省庁は行政の中心機関

 日本の政治は、選挙で選ばれた議員が国会で、法律をつくったり、予算を議決したりして、方針を決めます。国会で決められたことを実施するのが行政機関である内閣です。中央省庁とは、内閣の下で分野ごとの仕事を受け持ち、行政の中心となる機関です。
 省庁ができたのは明治時代で、必要な業務が増えるとともに省庁の数も増え、1990年代には20以上にも上って、それぞれの省庁が別々に仕事を行うことで無駄が出てしまう「縦割り行政」が問題となっていました。そこで2001年に再編され、各省庁をとりまとめる機関として内閣府を設け、現在の1府11省となりました。
 府・省の中でも特殊性や専門性が高い仕事を行う組織を「外局」と言い、庁と委員会の2種類があります。外局ではなく、独立して設けられている復興庁などもあります。省庁の数や種類は時代によって変わり、近年でも、2021年9月にデジタル庁、2023年4月にこども家庭庁が発足しています。

文部科学省の仕事

 文部科学省は、省庁再編の際に、文部省と科学技術庁が統合してできた機関です。文部省は1871年に設置され、長年、日本の教育行政を担っていました。科学技術庁は、1956年に設置されました。科学技術の発展のため、様々な研究機関の運営を担当しており、文部省の担当する大学で行う研究と重なる部分が多かったので統合されたのです。この成り立ちから、教育を担当する部局と科学技術を担当する部局に大きく分かれ、さらに外局として文化庁とスポーツ庁があります。

 教育 
 総合教育政策局では、教育についての総合的な計画をつくったり、学校に関する調査を実施したりしています。子どもから大人まで、「だれでも、いつでも、どこでも」学ぶことができる社会を目指して、環境整備を進めています。
 初等中等教育局では、小中学校や高校などの教育制度を整備します。学校での勉強が楽しく、充実したものになり、「生きる力」を育むことができるように、学習内容や方法をより良くするよう努めています。
 高等教育局では、大学でレベルの高い勉強や研究を行うことができるように、大学の取り組みを支援したり、海外からの留学生をサポートしたりしています。大学をより良くするための方法や、大学が守るべきルールなども考えています。

 科学技術 
 科学技術・学術政策局では、生活をより便利で豊かにするために、科学技術で何ができるかを考えています。海外との共同研究を支援したり、科学技術の普及・啓発活動をしたり、研究環境や設備を整えたりしています。
 研究振興局では、様々な分野の研究者を支援し、研究者同士が協力してより良い研究ができるようサポートしています。また、自然法則や病気治療の研究、コンピュータ開発など、生活を便利で豊かにするための研究や開発を進めています。
 研究開発局では、宇宙や海底、地球の内部や気候などの謎を解明するため、人工衛星・海底探査機など最新鋭の機械を使った研究・開発を行っています。また、大地震などの自然災害や地球温暖化への対策や、原子力の可能性を引き出すための研究・開発を行っています。

 スポーツ庁 
 スポーツ庁は、2015年10月にできた組織です。スポーツにより、すべての人が生きていく上で健康に過ごせる体をつくれるよう、体育の授業内容をより良くしたり、楽しくスポーツができる環境を整えたりしています。スポーツを通じて地域を活性化することなどにも取り組んでいます。

新・文化庁 ~文化芸術立国を目指して

 文化庁の使命は、日本の文化芸術を世界に、そして次の世代へと伝えていくことです。そのために、どのような仕事をしているのか、詳しく見ていきましょう。

▲新・シンボルマークは、円と伝統的な市松模様の組み合わせにより、多様な文化芸術の様相を表現しています。二種類の円の重なり合いが、文化芸術の無限の可能性も感じさせます。

文化庁の成り立ち

 文化庁は、文部省の文化局と外局の文化財保護委員会を統合し、1968年に文部省の外局として創設され、省庁再編後も文部科学省の外局となりました。同年に「文化芸術振興基本法」が制定、翌年に「文化芸術の振興に関する基本的な方針」が策定され、日本全体で文化振興を推進する枠組みが設けられました。同法は2017年に「文化芸術基本法」へと改正されました。
 文化庁は抜本的な組織改編を行い、創立50周年を迎えた2018年10月1日に「新・文化庁」が誕生しました。「新・文化庁」では、従来の「文化部」と「文化財部」の2部制を廃止し、分野横断的な組織とすることで「縦割り行政」からの脱却を図っています。また、各省庁にまたがる文化関連施策を「新・文化庁」が軸となって総合的に推進する体制の確立を目指しています。
 

新・文化庁の機能強化

 文化庁は「文化芸術立国」、文化芸術によって人生を豊かにし、心に活力を与え、そこから生まれる力によって、社会や経済を発展させることを目指しています。「新・文化庁」は、文化芸術立国の実現を目指し、振興するべき文化に「食文化」を追加して、文化政策の対象を拡大するなど、その機能を強化しました。

出典:京都府「新・文化庁の京都移転―文化芸術立国の実現に向けて―」パンフレット

文化庁の仕事

 芸術文化 
 芸術文化とは、感動や生きる喜びをもたらして人生を豊かにし、社会全体を活性化する上で大きな力となるものです。芸術文化を振興するため、音楽、演劇、舞踊等の舞台芸術創造活動への支援、若手をはじめとする芸術家の育成、子どもの文化芸術体験の充実、地域の芸術文化活動への支援、映画やアニメーション、マンガ等のメディア芸術の振興等に取り組んでいます。

 文化財 
 文化財は、今日まで守り伝えられてきた貴重な国民的財産です。文化財保護法に基づき重要なものを国宝や重要文化財、史跡、名勝、天然記念物等として指定、選定、登録したり、文化財の公開を補助したりして、文化財の保存と活用を図っています。また、日本を代表する文化遺産の中から特に価値を有するものをユネスコに推薦し、世界文化遺産への登録を推進しています。

 著作権 
 小説や絵、音楽などの作品をつくると、作者は著作権という権利を持ちます。作者以外が作品を勝手に利用できないように保護するものです。デジタル化・ネットワーク化の進展が作品の利用方法などに大きな変化をもたらしています。それらに対応するため、著作権に関する制度や法律の整備を進めています。

 国際文化交流・国際貢献 
 文化芸術の発信や国際文化交流の推進、国際的な創造・発信拠点の形成などを行っています。また、日本の専門家を派遣し、海外にある日本の文化遺産を保護する国際協力を推進しています。諸外国との相互理解を通して、日本の文化芸術を振興しています。

 国語施策・日本語教育 
 日本文化の基盤としての国語の重要性を踏まえ、「常用漢字表」を制定するなど、国語の改善およびその普及を進めています。また、日本語教育を行う人材の育成、各種の調査研究などを通して、国内に定住している外国人に対する日本語教育を推進しています。

 宗教法人と宗務行政 
 日本では、すべての国民に宗教を信じ、宗教活動を行う自由があります。宗教法人法に基づき、宗教法人の認証や宗教に関する資料の収集などを行い、宗教法人制度の適正な運用に努めています。

 文化審議会・その他 
 文化審議会は、文化財、国語、著作権、その他文化について調査・審議し、文部科学大臣または文化庁長官に意見を述べます。
 その他、博物館・美術館等の支援や食文化の振興なども行っています。

文化庁の京都移転 ~文化から地方を元気に

 最後に、文化庁が京都に移転することになった理由や、移転先の様子などをまとめました。移転によってどう変わっていくのか、今後の動向に注目しましょう!

東京一極集中の是正が目的

 移転のきっかけとなったのは、2015年3月に国が道府県に対して「政府関係機関の地方移転」の提案を募集したことでした。人口や企業をはじめ、様々なものが東京に集まっている「東京一極集中」を是正し、地方を創生するための取り組みです。東京一極集中には、地域格差が広がる、地方の人口が減る、災害時の被害が大きくなるなどの問題があり、首都機能の地方移転についての議論が重ねられてきていました。
 募集を受けて、京都府が文化庁の移転を提案し、2016年3月に「文化庁の機能強化を図りつつ、全面的に移転すること」が決定しました。その他の中央省庁には、消費者庁(徳島県)、総務省統計局(和歌山県)、特許庁(大阪府・長野県)、中小企業庁(大阪府)、観光庁(北海道、兵庫県)、気象庁(三重県)に移転の提案がありました。しかし、霞が関に集中する他省庁との連携が問題となって多くが断念し、消費者庁が徳島県、総務省統計局が和歌山県に一部を移転するにとどまりました。

京都移転で期待されること

 文化庁の移転には、「日本全国の文化の力による地方創生」、「地域の多様な文化の掘り起こしや磨き上げによる文化芸術の振興」などの意義があるとされています。また京都府は、文化庁の仕事と親和性が高く、「文化財が多く伝統文化が蓄積している」、「文化財を活用した観光を強化できる」といった点が評価されました。
 京都府には世界遺産「古都京都の文化財」に登録されている寺社仏閣が点在しており、国宝・重要文化財の総数は東京都に次いで全国2位です。文化庁が京都府に移転することで、強みである伝統産業や幅広いものづくり、映像・マンガ・アニメなどのコンテンツ、食、観光などを活かし、従来の文化芸術にとらわれない新しい文化が次々と生まれ、日本文化が発展していくことが期待されています。

移転先も文化遺産

 文化庁の移転先は、京都府庁に隣接している旧京都府警察本部本館です。昭和天皇の即位の礼に合わせ、1928年に建設された京都の近代化遺産であり、その文化的価値の高さも移転先に選ばれた理由のひとつです。新庁舎として改築・増築されることになり、整備事業に伴って2018年から2019年に発掘調査が行われ、平安時代から近世までの数多くの遺構や遺跡が見つかりました。特に戦国時代の大規模な堀の発見は、当時の混乱した世相を示す貴重な成果となっています。
 

▲文化庁京都庁舎除幕式の様子。玄関のアーチ状の縁には彫りの深い装飾が残されています。
(画像出典:京都市公式WEBサイト「京都市情報館」)

京都移転の課題と今後

 文化庁は2023年3月27日より京都府での業務を開始し、5月15日には職員の大半が移動しましたが、すべての課が移ったわけではありません。他省庁と連携する仕事が多い課は東京都に残っており、移転したのは全9課のうち5課、都倉俊一長官をはじめ全職員の7割にあたる約390人です。京都庁舎には、国宝、重要文化財などの保存・活用や、宗教に関する部署が移り、東京庁舎には、文化芸術分野の環境整備、著作権の保護・利用、日本語教育の担当などの部署が残ります。
 東京都と京都府に拠点を分けたことによる課題も残っています。移転に先立ち、試験的に京都府で勤務したところ、国会対応などで対面を求められることが多く、東京都との業務のうちリモートで対応できた割合はおよそ26%にとどまりました。そのため、初年度は出張費だけで4300万円の予算があてられています。国会議員や他省庁とコミュニケーションをとり、リモート対応の理解を求めていくなど円滑に進めることが求められています。
 中央省庁の地方移転は地方創生のための取り組みで、中央機関が移転すれば関連する民間企業なども移転し、地方で働く場が増えるだろう、という考えです。ですが、現時点では、民間企業の移転はなく、効果がはっきり見えていません。2023年度中に文化庁の移転に関する効果を検証し、公表することになっています。確かな効果があれば、他機関の移転などが全国的に広がるかもしれません。本当に地方創生への足がかりとなるのか、今後を見守りましょう。

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