• 特集②

2023年6月号特集② 英語で読む名作落語

落語は、300年以上も昔から語り継がれている日本の話芸です。

落語家が1人で数人を演じ分け、扇子や手ぬぐいを使って様々な場面を演出します。

おもしろくて笑いを誘う滑稽噺の他、心温まる人情噺や、背筋が凍るような怪談噺もあります。

その落語を英語で表現すると、どうなるのでしょうか。

よく知られている演目を3つご紹介します。

落ちにクスッと笑いながら英語の学習に役立ててくださいね!

Contents

 あらすじ  
数人の若者が集まり、それぞれ怖いものについて言い合っていました。その中の熊という男は「俺は何よりもまんじゅうが怖い。まんじゅうの話をしただけで気分が悪くなった」と言って家に帰ってしまいました。残った男たちは「あいつはどうも気に食わない。まんじゅう攻めにして困らせてやろう」と、栗まんじゅうやそばまんじゅうなど、まんじゅうをたくさん買い込んで熊の部屋に投げ入れます。すると熊は「怖い怖い」と叫びながら、まんじゅうをどんどん平らげていき……。

Kuma: “How dare you do this to me! I told you I’m scared of Manju!! Look at them!
They look delicious, I mean devilish!! Oh I’m so scared! (Munching)
Tasty…… I mean scary! Kuri Manju and Soba Manju!! (Munching)
I’m so scared I think I’m going to have a stomachache!”
Men: “……It’s a bit strange. I hear him screaming, but in between his words,
I hear him munching on something. Let’s take a look.”
Kuma: “Please don’t do this to me! I feel like I’m drowning in the sea of Manju!”
Men: “Hey hey! Look at him! He’s munching on all the Manju that we got!”
Kuma: “Oh I’m so scared, I need to get these out of my sight right now!”
Men: “Hey, he’s hiding them inside his sleeve! Damn, we got fooled by him! Hey Kuma!
You told us you’re scared of Manju, but you’re eating them all up! What are you really scared of!?”
Kuma: “Well, come to think of it, I’m scared of a cup of hot tea.”

 

  熊   「なんてことしやがんだい! 俺はまんじゅうが怖いって言っただろ!! 見ろ、こんなにおいしそうな……いや、恐ろしそうな、ああ怖い!  (むしゃむしゃ食べながら)うまい……いや怖い! 栗まんじゅうにそばまんじゅう!! (また食べて)駄目だ、あまりにも怖くて腹が痛くなりそうだ!」
 男たち  「……なんかおかしくないか? あいつが叫んでる合い間に、何かをむしゃむしゃ食べてるような音が聞こえるぞ。中をのぞいてみよう」
  熊   「頼むからやめてくれ! まんじゅうの海におぼれそうだ~!」
 男たち  「あれっ、見ろよ! あいつ、俺たちが持ってきたまんじゅうを全部食べてるじゃねぇか!」
  熊   「あ~、こんな怖いものは見えないように隠さなくちゃいけない!」
 男たち  「おい、あいつ、まんじゅうを袂に隠してるぞ。ちくしょう、俺たちは一杯食わされたんだ。やい熊! おまえ、まんじゅうが怖いなんて言っときながら全部食べてるじゃないか! 本当は何が怖いんだ!?」
  熊   「う~ん、ここらで一杯、熱~いお茶が怖い」

和服の袖口から下の袋状になっているところ。

 

devilish (形容詞)【意味】悪魔のような、極悪な
munch (動詞)【意味】(~を)むしゃむしゃ(もぐもぐ)食べる
 あわせて覚えよう ・crunch…ばりばり噛む ・gulp…ごくごく飲む
stomachache (名詞)【意味】胃痛、腹痛
 あわせて覚えよう ・stomach…胃 ・ache…痛み
drown (動詞)【意味】おぼれ死ぬ
damn (感嘆詞)【意味】ちくしょう!しまった!
fool (動詞) 【意味】だます、あざむく、ごまかす、(~に)一杯食わせる
 あわせて覚えよう ・名詞では<愚か者、間抜け>という意味

Okiku: “One, two……atchoo!”
Audience: “You all right there, Okiku?”
Okiku: “Just a little cold. Nothing to worry about. Three, four……atchoo! Five, six, seven, eight…….”
Audience: “Time to go! Hey move! Get out of the way! What? It’s too packed,we can’t move?
We have to go or we’re going to die.”
Okiku: “Nine.”
Audience: “Oh no, we’re done. We’re all going to die here.”
Okiku: “……Ten, eleven, twelve, thirteen, fourteen.”
Audience: “……Wait! Did I hear her say fourteen? Look, she’s still counting.”
Okiku: “Fifteen, sixteen, seventeen, eighteen, and that’s it for tonight.”
Audience: “What’s going on?”
Okiku: “Don’t you understand? I’m going to take a day off tomorrow.”

 

 お 菊  「1枚~、2枚~……ハックション!」
 見物人  「大丈夫かい? お菊さん」
 お 菊  「ちょいと風邪をひいてしまいまして。大したことはありません。3枚~、4枚……ハックション! 5枚~、6枚~、7枚~、8枚……」
 見物人  「よし逃げるぞ! おい動け! どけよ! 何? 人が多すぎて身動きがとれない? 動かないと死んじまうだろ」
 お 菊  「9枚~」
 見物人  「あぁ、もうおしまいだ。俺たちみんな、ここで死んじまうんだ」
 お 菊  「……10枚~、11枚~、12枚~、13枚~、14枚~」
 見物人  「……ん? なんて言った? 14枚だって? 見ろよ、彼女、まだ数えてるよ」
 お 菊  「15枚~、16枚~、17枚~、18枚~。はい、おしまい」
 見物人  「一体どうしたってんだ!?」
 お 菊  「わからないのかい? 明日は休むんだよ」

 

atchoo (擬声語)【意味】ハクション(くしゃみの音)
 あわせて覚えよう ・achoo、atishooというつづり方も
cough…ゴホンゴホン(咳の音)
packed (形容詞)
【意味】人でいっぱいの、すし詰めの、満員の
What's giong on?
【意味】どうしたのか、何事か
take (a day) off
【意味】仕事を(1日)休む

Speaker: “Ladies and gentlemen. Welcome to our zoo today. Our special show will be beginning
shortly, so please gather around the tiger’s cage. Inside that cage, there is the lion. We put the cage
next to the tiger’s cage, and open the door, and free the lion into the tiger’s cage.
There will be a fight between the lion and the tiger. Who will be the winner!?
Please witness this extraordinary fight!”
Nephew: “No no no no no!!! What is he saying? No, please don’t let him in!”
Boy: “Mommy, look at that tiger. He’s trembling.”
Nephew: “Oh, shut up! Look at that lion, oh, he’s got such sharp teeth! Please don’t come here.
Oh, no I’m so scared!”

The tiger is so scared that he covers his head and ducks to the ground. The lion comes right to the
tiger, and just as he was about to bite on his head, he whispers into his ears,
Lion: “Don’t worry. I’ve been hired for 10,000 yen as well.”

 

 司会者  「皆様、本日はようこそ当動物園にお越しくださいました。これから特別なショーが始まります。どうぞトラの檻の周りにお集まりください。あの檻の中にはライオンが入っております。あの檻をトラの檻の横につけまして、扉を開けてライオンをトラの檻へと放ち入れます。これから始まるライオンとトラの一騎打ち。どちらが勝つか、どうぞ激闘をご覧ください!」
 甥(トラ)  「いやいやいや! 何を言ってるんだ、あの男は!? やめてやめて、お願いだからライオンを入れないで!」
 子ども  「お母さん、あのトラ見て。ぶるぶる震えてるよ」
 甥(トラ)  「うるさいよ。見ろよ、ライオンのあの鋭い牙! 頼むからこっちへ来るな。あぁ、もう駄目だ~!」

あまりにも怖かったものですから、トラは頭を抱えて地面にしゃがみこんでしまいました。ライオンはトラの方へまっすぐ向かってきます。牙をむいて頭に嚙みつこうとしたかと思うと、トラの耳にこうささやきました。
 ライオン  「心配するな。俺も1万円で雇われた」

 

witness (動詞)【意味】(~を)目撃する、目の当たりにする
 あわせて覚えよう  名詞では<目撃者、証人、証拠>という意味
extraordinary (形容詞)【意味】並外れた、桁違いの、特別の
tremble (動詞)【意味】(恐怖・怒りなどで)震える、身震いする
duck (動詞)【意味】(身を)かがめる
whisper (動詞)【意味】ささやく、耳打ちする
 あわせて覚えよう  名詞では<ささやき声>という意味
hire (動詞)【意味】人を雇う
 

 あらすじ 
金持ちの屋敷で働くお菊は、10枚組の家宝の皿を1枚盗んだといういわれのない罪を着せられ、井戸に投げ捨てられてしまいます。やがてその井戸に「1枚~、2枚~」と皿を数えるお菊の幽霊が現れるように。9枚まで数えるのを聞くとその場で死んでしまうという噂が広まり、怖いもの見たさで見物人がどっと押し寄せます。お菊が9枚目の皿を数える前に誰もが我先にと逃げ帰る――そんなことが続いたある晩のこと、大勢の見物人の前に姿を見せたお菊は、何やらいつもとは様子が違うようで……。

 あらすじ 
仕事が長続きしない甥に叔父が小言を言いにやって来ます。やりたい仕事の条件を尋ねると「朝は10時以降に始まり、力や知識や人と話す必要がなく、いつもゴロゴロ昼寝ができて、夕方4時には終わって、1日1万円もらえれば」。呆れながらも叔父はぴったりの仕事を紹介します。それは動物園でトラになること。人気のトラが死んでしまい困っていた動物園の園長が、毛皮をかぶってトラのふりをしてくれる人を探していたのです。ところが仕事を始めた矢先、想定外のことが起きて絶体絶命の大ピンチに!?