- 特集①
再生再生可能エネルギーとは、石油や石炭などの燃料を必要とせず、太陽光や風力などの自然の力を活用し、永続的に使うことができるエネルギーのこと。今、世界中で研究、開発が進められています。
今回お訪ねした株式会社グローバルエナジーハーベストは、雑音や振動といった、日常生活で発生し、利用されていないエネルギーを有効活用する「エネルギーハーベスティング」に取り組んでいます。子どもの頃の思いつきをもとに研究を始め、学生時代に会社を立ち上げたという速水浩平さんに、発電技術や開発のきっかけ、進路選択のアドバイスなど、様々なお話を伺いました!
まずは、日本や世界の再生可能エネルギーの現状を確認しましょう。世界的に重要性が高まっているのはなぜか、エネルギーハーベスティングとはどのようなものなのかについて、詳しく説明していただきました。
これまでのエネルギーは、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を使う火力発電が主力でしたが、化石燃料には限りがあり、燃やすと地球温暖化の原因となる温室効果ガスが出るため、代わりとなるものが必要になってきています。原子力発電は、少ない燃料で大きなエネルギーを生み出せ、温室効果ガスを出しませんが、安全性が懸念されています。再生可能エネルギーは、これらの課題を解決できるものとして注目されており、世界で急速に普及しています。
また、日本は資源が少なく、エネルギー自給率が低い国です(*1)。発電量の約8割を火力発電が占めていますが、化石燃料はほぼ海外からの輸入に頼っています。海外にエネルギーを依存していると、国際情勢などに左右されて、安定的にエネルギー源を確保できない可能性があります。エネルギーの安定供給のためにも、国内生産できる再生可能エネルギーの重要性が高まっているのです。現在、日本の導入率は諸外国と比べて低い水準にあり(*2)、導入率を上げるための取り組みが進められています。
再生可能エネルギーの最も大きな課題は安定性です。自然の力を利用する以上、当然のことではありますが、天候や地域によって発電量が大きく左右されます。そのため、再生可能エネルギーは、火力発電や原子力発電に比べて費用がかかります。
例えば、太陽光発電は雨の日や夜間は発電できませんが、発電できないからと言って、その間は電気を使わないというわけにはいきません。電力をためておくことができる蓄電池が必要で、太陽光発電だけなら安くできても、蓄電池の費用がかかるのです。また、風力発電は風が強く吹く広い場所でないと設置できませんが、日本では発電に適した地域と、電力を多く使う地域が離れていることが多く、送電のための費用もかかることになります。
これらは日本だけではなく、世界共通の課題であり、*2のグラフを見てもわかるように、100%再生可能エネルギーにすることは難しいというのが現状です。再生可能エネルギーで主力電源の全てを賄うというのはあまり現実的ではなく、当面は発電量の調整が可能な火力発電や原子力発電などと併用していく必要があります。
創業当初の社名でもあり、最初に研究を始めたのが音力発電です。きっかけは子どもの頃の思いつきでした。小学4年の理科の授業で、モーターと発電機の仕組みは逆だと習いました。モーターは電気でモーターを回し、発電機は手でモーターを回すと電気が起こる、というものです。その話を聞いた私は「スピーカーは電気で音を出すのだから、逆に音で電気を起こすこともできるんじゃないか」と思いました。私は新しいことを考えるのが好きで、おもしろいアイデアや発明を思いつくと「発明ノート」に書きとめていました。
大学2年で研究室に入って、それまで書きためた発明ノートから特におもしろいと思う研究テーマをいくつか挙げると、先生も音力発電に興味を示してくれたので、本格的に研究を始めました。ところが、多くの学生や教授、企業の方が参加する研究会で発表したところ、口々に「音力発電はやめた方がいい」と言われてしまったのです。そこで初めて、音が持つエネルギーは小さく発電には向かないという定説があると知りました。
普通はここで諦めるかもしれませんが、私は前向きな性格なので「誰もできていないことを自分ができたらすごいじゃないか」と、かえってやる気になりました(笑)。確かに指摘された通り、音のエネルギーは小さく、思うような成果は出せていなかったのですが、こうしたらいいんじゃないかという方法をたくさん考えていたので、とりあえず全部試してみよう、と。そして数か月間、試行錯誤を繰り返して、ある程度の電力を起こすことに成功したのです。
グローバルエナジーハーベストは、慶應義塾大学発の技術ベンチャー企業として創業。身の回りで捨てられているエネルギーをなくすことを目指して、日本初、世界初となる様々な発電技術を開発しています。
中でも、発明のきっかけとなった音力発電、代表的な製品である振動力発電、現在最も力を入れて開発を進めている波力発電について、お話を伺いました。
技術の特徴
●地産地消
その場で発電し、電気を供給可能
●どこにでもあるエネルギー
日々の活動や雑音・振動といった、捨てられていたもので発電
●加工自由度
発電のための場所・組み込み先を選ばない
※製品及び技術は全て、特許技術を使用 国内特許:40件、外国特許:8件
音は空気中を伝わる振動なので、音力発電は、簡単に言うと、音でスピーカーを振動させ、その力を利用して電力を起こすという仕組みです。振動力発電はその応用で、音だけではなく、様々な振動を利用します。音よりも大きなエネルギーなので、より多くの電力を起こすことができます。
振動力発電の研究を進めて、人が歩いたり、車が走ったりする際に発生する振動のエネルギーを電気エネルギーに変換する「発電床®」を開発しました。将来は自分で会社をつくりたいと考えていたので、学生の起業を支援するためのコンテストなどで発表したところ、評価が高く、これならいけると思い、改良を重ねました。実用化できるまで進めたタイミングで会社を設立。その後、人が指でボタンを押した際の振動を利用して発電を行う「振力電池®」も開発し、現在まで振動力発電が代表的な製品となっています。
振動力発電は基本の技術が既に確立できたので、次に実用化を目指しているのは、波力発電です。海の波を利用して電気を起こすもので、天候に左右されることが少なく、大きなエネルギー(太陽エネルギーの約20〜30倍、風力発電の約5倍)を持っています。世界6位の海岸線の長さを持つ日本に最も適した再生可能エネルギーだと期待されており、3つの国家プロジェクトに採用されています。
波力発電を最初に製品化したのは日本で、海に浮かぶブイに発電機をつけて夜間に光らせるというものでした。ただこれは発電量が小さく、ヨーロッパやアメリカでも40年以上研究が行われているにもかかわらず、大規模に発電する技術はまだ開発されていません。
波力発電には、3つの課題があります。1つ目は、台風がきた時などの高波で壊れてしまうこと。2つ目は、フジツボなどの海洋生物が付着して壊れてしまうこと。3つ目は、漁業との兼ね合いで、漁場で船が航行する沖合いに発電機を置けないこと。私は、これらの課題の解決が難しいのは、より多くの電力を得るため、大規模な発電機を沖合いに設置しようとするからだと考えています。
そこで、発想を転換して、発電量をある程度の規模に抑え、沿岸に設置できる発電機を開発しました。3つの課題全てを解決できるものとして、実用化へ向けての研究を進めています。地球は表面積の7割が海であり、波力は再生可能エネルギーの中でも最もポテンシャルが大きいと言われています。世界で必要とされる技術だと思うので、いち早く開発して、多くの人々に貢献したいです。
ベンチャー企業とは、新しいサービスやビジネスに挑戦する会社のことです。高校2年の頃に、将来は自分で会社を立ち上げようと決めたという速水さん。進路選択のきっかけや実際に起業するまでのお話を伺い、関塾生の皆さんへのアドバイスもいただきました!
子どもの頃から、人と同じことはやりたくなくて、自分で新しい方法を考えるのが好きでした。音力発電もそうで、研究を始めた時、調べても方法がほとんど出てこなかったのですが、もしたくさん出てきていたら違うことを選んでいたと思います。そんな私が将来の進路を具体的に考え始めたのは高校2年の時で、通っていた予備校の先生が、アメリカではベンチャー企業が盛んだと話してくれました。単純に、自分で会社をつくれば、自分が好きなことをできるだろう、と思ったんですね(笑)。
当時、大学発ベンチャー企業の支援に力を入れていたのは、慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)だけだったので、二年浪人して入学しました。受験勉強のアドバイスをするなら、目標を定めてやるべきことを整理することが大事です。志望校が決まれば、過去問題などでどのような問題でどのくらい得点すればいいかがわかります。やるべきことがわかれば頑張るだけです。私は、入学後にやりたいことがはっきりしていたので、モチベーションを維持でき、勉強もつらくありませんでした。
ちょうど私が入学した年に、ベンチャー企業を支援する組織が正式にできて、入学式で案内がありました。それで説明会に参加したら、専門用語が多くて話の内容が全くわかりませんでした。上級生ばかりでしたし、場違いだったかな、もう1~2年経ってから参加した方がいいかな、と思ったのですが、責任者の方が「君は1年生でしょう。わからないことが多いと思うけれど、それも含めて支援するから一緒に頑張っていきましょう」と声をかけてくれたのです。それならと入会して、ビジネスや起業の方法について学び始めました。
結果、研究と起業の準備を同時に進めることができたのは、とても良かったです。好きなことをやりたくて会社を立ち上げたいと思いましたが、好きなことだけではビジネスとしては成り立ちません。どんなに性能が良くても、需要が少なかったり、価格が高すぎたりすると売れないからです。発電床の場合、改良だけを考えると、発電量を増やすことが一番の目的になります。ですが、そのために構造を複雑にすると、壊れやすくなったり、価格が高くなったりします。様々な企業の意見を聞くことができたので、ニーズやコスト、必要な性能と適切な価格を考えながら研究を進めることができました。
会社を始めてからも大変なことはたくさんありましたし、今でもあります。壁にぶつかっても乗り越えられるのは、やはり好きなことをやっているからです。私は誰もしていないことに挑戦するのが好きなので、難しい問題でもどうすれば解決できるかを考えるのが楽しいです。
だから皆さんも、興味のあることにどんどん挑戦して、好きなことをしてください。興味のあること、やってみたいことを職業にするのが一番です。ただ、興味のあることがない、わからない、という人もいると思います。そういう人はまず、何でもいいから始めてみましょう。始めてみたらおもしろいかもしれませんし、そうじゃなかったら変えればいいだけです。ですが、誰かに言われてやるのはおすすめできません。やらされていると思うと、モチベーションが続かないからです。
その場合は、“恩返し”のつもりで始めるのがいいと思います。私はこれまで多くの人にお世話になりました。親はもちろん、学校の先生や、大学で起業を支援してくれた人など、皆の手助けがなければ、今の私はありません。金銭など直接的な見返りではなく、社会に役立つ企業をつくってほしいと思って応援してくれたわけですから、仕事をすることが恩返しになります。苦手だな、やりたくないなと思うことでも、恩を返すためだと思うと頑張れます。
それに、私が生まれた時からずっと日本は豊かな国で、だからこそ好きな仕事ができています。それは先人たちのおかげで、日本を豊かにするために頑張ってくれた人たちがいたから、今の社会があるわけです。社会のため、誰かのために自分が恩返しできることは何だろう、そう考えてやっていれば、いつかきっと自分が本当にやりたいことに出合えるはずです!
発電床の導入事例
①コクヨ株式会社
②独立行政法人国際協力機構