• 特集①

2024年8月号特集① 地質・地形から地球の未来を考える ―ジオパークへ行こう!

ジオパークとは?

 ジオパークには、各地域のこれまでの大地の“記憶”が刻まれています。気候変動などによって生まれた変化に富んだ景観や、何層にも重なった地層は、その場所の成り立ちを教えてくれる大切な“宝物”と言えるでしょう。
 その“宝物”がどのようにしてできたのかを知り、人々の暮らしや地域の動植物、産業、食べ物とどう結びついているかを学べる場所、それがジオパークです。

〈過去〉を知り、〈未来〉を考える

 ジオパークでは様々な景色に出会うことができます。それらは数百万年、数千万年という途方もない年月をかけてつくられたもの。現在の姿になるまでのストーリーを知ると、ダイナミックに変動し続ける地球の息づかいを感じることができるでしょう。
 地球の〈過去〉を知り、そこから〈未来〉を想像して、今できることは何かを考える――。ジオパークはこんな目的のもとに認定されています。46地域の中からピックアップして紹介しましょう。

洞爺湖有珠山ユネスコ世界ジオパーク


火山と“共生”し、噴火の被害を未来に伝える

 約11万年前の巨大噴火でできた洞爺湖と有珠山を中心とした地域。有珠山は1663年以降、噴火を繰り返しており(明らかなものだけで9回)、今も活動を続ける活火山です。ジオパークでは、繰り返される火山活動によって変動する大地の姿(火口や断層)を見ることができます。また、過去の噴火が起こした災害の記憶を風化させないために、被害を受けた建物や道路などを丸ごと「災害遺構」として残し、見学できるようにしています。

●テーマ 変動する大地との共生
●主な見どころ 洞爺カルデラ、中島、北黄金貝塚、小幌洞窟、昭和新山、2000年噴火遺構公園 など

▲洞爺湖
約11万年前に起きた巨大噴火で大量のマグマが地表に放出され、カルデラが形成されました。その後、カルデラ内に水がたまってできたのが洞爺湖です。面積では国内で3番目に大きいカルデラ湖で、中央には約5万年前の噴火で形成された*1溶岩ドーム群からなる中島があります。

*1上昇したマグマが火口からあまり流れずに、火口のまわりに盛り上がった地形をつくったもの。

下北ジオパーク(青森県)


北限の半島ならではの魅力がいっぱい!

 金太郎が持つ“まさかり形”をした下北半島。その北部に位置するのが本州最北の地・下北地域です。太平洋、津軽海峡、陸奥湾の3つの海に囲まれ、長年にわたる波の浸食でできた奇岩群や、寒冷地特有の降雪、結氷により生まれた独特の景観など、見どころがたくさんあります。18に分かれたエリアはそれぞれに特色があり、場所によって異なる成り立ちを持つ大地が独自の生態系を築いています。暖流と寒流2つの海流の影響を受ける津軽海峡は、それぞれを好む多種多様な生き物が共生する生き物の宝庫。本州最北端の地ならではの動植物にも注目を!

●テーマ 海と生きる「まさかり」の大地 ~本州最北の地に守り継がれる文化と信仰~
●主な見どころ 霊場 恐山、仏ヶ浦、ちぢり浜、津鼻崎、親不知渓谷、安部城鉱山跡 など

▲鯛島
陸奥湾に浮かぶ鯛島は、海底の火山活動によって噴き出た石と火山灰が混ざった岩石と溶岩でできています。海底火山から出た溶岩は、水と触れた外側の部分は急激に固まる一方、内側は熱いままで、外側の硬い部分を突き破って流れていきます。このようにしてできる溶岩は、丸い枕が並んだように見えることから枕状溶岩と呼ばれます。その構造を鯛島で観察しませんか?

下仁田ジオパーク(群馬県)


日本列島誕生の秘密が隠されている?

 注目は独特の山並み。市街地から見えるボコボコとした山々は、地元では「根なし山」と呼ばれています。山の上部と下部では地層が異なり、山頂部ははるか昔に大地の変動によって移動してきた地層が乗り上げたものだと考えられています。どこから移動してきたかはわかっていませんが、もしかしたら日本列島誕生の秘密を秘めているかも?
 数百万年前の火山活動の名残とも言われる荒船山や妙義山、日本列島を東西に横切る川井の断層も見どころのひとつ。日本が今の姿になるに至った地殻変動の痕跡を各所で見ることができ、そうしてできた地形を活かした産業についても学べます。

●テーマ 日本列島の誕生をひもとく根なし山
●主な見どころ 荒船風穴、宮室の逆転層、荒船山、妙義山、川井の断層(中央構造線)など

▲荒船風穴
世界文化遺産
夏でも冷風が吹き出す地形を利用した蚕種(蚕の卵)貯蔵施設です。蚕の卵を低温保存して孵化の時期を調整したことで1年に複数回の養蚕が可能に。繭、生糸の増産に成功し、明治から昭和初期にかけて、富岡製糸場とともに日本の絹産業を支え、その発展に貢献しました。

銚子ジオパーク(千葉県)


様々な地層から大地の成り立ちを探ろう

 古くは約1億5000万年前から近代まで、様々な年代の地層を見ることができます。県最東部に位置する犬吠埼の大地は「犬吠埼の白亜紀浅海堆積物」として国の天然記念物に指定。約1億2000万年前、水深がまだ浅かった頃の環境に特徴的な地質構造や*2生痕化石、アンモナイトの化石などが見つかっています。
 銚子半島で最も標高が高い愛宕山周辺の地層は、県内最古の中生代ジュラ紀のもの。犬岩、千騎ケ岩はこの「愛宕山層群」に属する硬砂岩と泥岩でできた岩石で、ジオパークの人気スポット。地層や化石から大地の成り立ちについて考えましょう!

*2生き物が地層中にのこした活動の痕跡が化石となったもの。

●テーマ 太平洋に突き出した大地の右腕
●主な見どころ 屏風ケ浦、犬吠埼、犬岩、千騎ケ岩、粟島台遺跡、余山貝塚 など

▲屏風ケ浦
銚子半島南西側の海岸に、高さ約20~60mの*3海食崖が約10㎞にわたって続きます。地層がほぼ水平に広がり、下から上に堆積していることが観察できます。最上部の関東ローム層の他、大きく2つの地層からできており(下の地層は約300万年~40万年前のもの。上の地層は約10万年前のもの)、国の名勝および天然記念物に指定されています。

*3波などの浸食によってできた切り立った崖のこと。

中部

伊豆半島ユネスコ世界ジオパーク(静岡県)


半島全体にあふれる“大地の恵み

 伊豆半島の歴史は約2000万年前にさかのぼります。当時の伊豆は、本州からはるか南に約800㎞も離れた太平洋の海底に沈む火山群でした。その後、フィリピン海プレートの動きとともに長い年月をかけて北上。行く手にあった本州と衝突し、現在の伊豆半島になりました。
 本州と衝突した際の隆起によって、本来は見ることが難しい海底火山が姿を現し、その様子が観察できるように。様々な時代の地層や変化に富んだ地形など、世界的に見ても貴重な“大地の恵み”が半島全体にあふれています。

●テーマ 南から来た火山の贈りもの
●主な見どころ 恵比須島、龍宮窟、鮎壺の滝、大室山、丹那断層公園、入間千畳敷、浄蓮の滝 など

▲恵比須島
橋で渡ることができる小島。島を一周する遊歩道には、軽石や火山灰がつくる美しい縞模様や荒々しい水底土石流など、太古の海底火山の名残が。地殻変動によって少し傾いた地層は、遊歩道に沿って様々に姿を変え、“ジオ散歩”を楽しむことができます。
〈写真提供:(一社)美しい伊豆創造センター、鈴木雄介撮影〉

糸魚川ユネスコ世界ジオパーク(新潟県)


日本を東西に分ける大地の境界を見る!

 糸魚川と言えば、日本随一のヒスイ(翡翠)の産地で、世界最古のヒスイ文化発祥の地。ヒスイは日本の国石であり、新潟県の石でもあります。“ヒスイ海岸”の愛称で親しまれている糸魚川海岸を散歩すれば、ヒスイが見つかるかもしれませんよ。
 日本列島を東西に二分する大断層「糸魚川―静岡構造線(糸静線)」の見学もおすすめ。「フォッサマグナパーク」は、糸静線を人工的に露出させた断層見学公園で、断層破砕帯をはさみ、東日本の岩石(約1600万年前)と、西日本の岩石(約4億年前)が接しているところを見学できます。東西の大地の境界をその目で確かめてみませんか?

●テーマ 東西文化が出会うまち
●主な見どころ 小滝川ヒスイ峡、海谷渓谷、青海海岸、糸静線と塩の道、月不見の池 など

▲小滝川ヒスイ峡
糸魚川を代表するヒスイの産地(国の天然記念物)。昭和初期までは、日本の遺跡から見つかるヒスイは外国産だと考えられていましたが、1938(昭和13)年、日本で初めて小滝川でヒスイが見つかり、現在では日本の遺跡から見つかるヒスイは、すべて糸魚川地方で産出されたものとされています。
(写真提供:糸魚川ジオパーク協議会)

山陰海岸ユネスコ世界ジオパーク(京都府、兵庫県、鳥取県)


見て、体験して……楽しみ方は無限大!

 京都府京丹後市から鳥取市まで、東西約120㎞、南北最大約30㎞にわたって広がるエリア。日本海に面する*46つの市と町で構成されています。日本列島がアジア大陸の一部だった頃から、日本海が形成され現在に至るまでの痕跡が、エリア内に分布する地層や岩石などに数多く残されています。見るだけではなくいろいろな体験を通して多彩な自然や地形を楽しめるのも魅力。全部で27の*5トレイルコースがあり、海で行う体験学習も。ここでしかできない体験でジオパークを満喫しよう!
*4京都府京丹後市、兵庫県豊岡市・香美町・新温泉町、鳥取県鳥取市・岩美町。
*5自然散策ルートのこと。

●テーマ 日本海形成に伴う多様な地形・地質・風土と人々の暮らし
●主な見どころ 浦富海岸、玄武洞公園、三尾大島、松ヶ崎百層崖、立岩、鳥取砂丘 など

▲浦富海岸
約3000万年前、日本海が形成される前の時代の花崗岩でできた岩石海岸。荒波によって花崗岩が侵食され、独特の海岸地形がつくられました。遊覧船でのクルージングが楽しめますが、絶景をもっと間近で見たい人には小型船がおすすめ。遊覧船が通れない狭い航路にも入っていきます。高さ70mの断崖の真下で大迫力の地形を体感しよう。

北海道

東北

関東

近畿・中国

四国

室戸ユネスコ世界ジオパーク(高知県)


隆起し続ける土地で暮らす人々の工夫を知る

 室戸岬は、深海で起こる地震(地殻変動)により何度も隆起を繰り返してできたものです。海岸線から100~200mほど高い位置には現在、何段かの平坦地が広がっています。これは、土地の隆起と十数万年前に海面が上昇したことによってできた「海成段丘」で、段丘は高いところほど古く、最も広い台地は約13万年前につくられたものだとか。海成段丘は日当たりと水はけが良く、作物の栽培に適した場所で、サツマイモや大根などがつくられています。大地が盛り上がり続ける場所で、人々がどんな工夫をしてきたかを知ることができます。

●テーマ 海と陸が出会い、新しい大地が誕生する最前線
●主な見どころ 枦山―西山台地、行当―黒耳海岸、ビシャゴ岩、羽根岬 など

▲タービダイト層
行当岬には約4000万年~3000万年前に形成された様々な地層が分布しており、タービダイト層もそのひとつ。タービダイト(乱泥流堆積物)とは、砂や泥が海水と混ざった流れによって海底に積もってできた縞々の地層のこと。水平に堆積した後、回転して立ち上がったために縦向きの縞模様になっています。

九州

阿蘇ユネスコ世界ジオパーク(熊本県)


独特の地形から過去の火山噴火を学ぶ

 ジオパークを象徴するのは、数十万年にわたる火山活動でできた阿蘇カルデラです。阿蘇山はこれまでに4度の大噴火を起こしており、中でもけた外れの規模だったのは約9万年前に起きた4度目の噴火。降灰は日本全土を覆い、火砕流は海を越えて、山口県にまで達したのだとか。
 こうした環境の中で火山と向き合い、自然と共存してきた人々の暮らしを体感できます。ここでしか見られない独特の火山景観や植物を楽しんで、火山がもたらす恵みについても考えてみましょう。

●テーマ 阿蘇は、生きている。 ~阿蘇火山の大地と人間生活にふれる、時空を超える旅~
●主な見どころ 中岳、阿蘇カルデラ、大観峰、蘇陽峡、らくだ山 など

▲中岳
阿蘇カルデラは、東西約18㎞、南北約25㎞、面積約350㎡と世界最大級の規模を誇る巨大カルデラです。そのほぼ中央に位置するのが、今も活動を続ける中岳。火口の中のエメラルドグリーンの湯だまりや噴煙を上げる様子を見ると、活火山であることを実感します。

 

 

 ジオパーク(Geopark)とは、地質や地形から地球の過去を知り、未来を考えて、活動する場所のこと。「ジオ(地球・大地)」と「パーク(公園)」を組み合わせた言葉で、大地の特徴(山、海、湖など)を守り、教育や観光などに活かす取り組みを行っている地域を指します。
 「ジオパーク」には、日本ジオパーク委員会が認定する「日本ジオパーク」と、ユネスコが認定する「ユネスコ世界ジオパーク」があります。日本ジオパークは全国に46地域あり(2024年5月現在)、そのうち10地域はユネスコ世界ジオパークにも認定されています。各地域の地質や地形、景観は地球の歴史を物語っているだけでなく、そこに住む人々の暮らしや文化などと密接に関わっています。ジオパークに出かけて、大地と自然、人とのつながりを学びましょう!

ユネスコ世界ジオパークには、48か国213地域が認定されています(2024年5月現在)。