数学が好きな人に理由を尋ねると「数学は美しいから」と答える人が少なからずいます。確かに、複雑で難解な科学の法則を、たった1行の数式ですっきり簡潔に、しかも完璧に表すことができるのが数学の魅力かもしれません。ピタゴラスは「万物は数なり」と語り、ガリレオ・ガリレイは「宇宙は数学の言葉で書かれている」と述べました。そんな数学の基本である数のルーツを探りました。
算数や数学で学ぶ以外にも、私たちは数字を当たり前のように使っています。数字がなかった時代は、どうやって数を表していたのでしょうか? まずは古代の数の表し方を見てみましょう。
数字がなかった昔の人たちは、動物の骨や木の幹、岩などに印をつけて数を記録しました。例えば、動物を1匹捕まえたら1つ印をつける、もう1匹捕まえたらまた1つ……というように。実際、約2万年前(後期旧石器時代)のヒヒの骨に、意図的に刻み目をつけた跡が見つかっています。大きさの異なる刻み目が3列、ほぼ並行してつけられており、ある列の刻み目は全て素数だったことから、数学的意義が高いものとする見方もあります。
はっきりとした数の表記が初めて現れるのは、紀元前3000年頃のエジプト文明、メソポタミア文明の頃と推定されています。この頃は数をどのように表していたのでしょうか。
●古代エジプトのヒエログリフ
ものの形をもとに作られた象形文字ヒエログリフは、「聖刻文字」「神聖文字」とも言います。十進法を使っていた古代エジプト人は、10のべき乗ごとに絵のような文字を使って数を書き表しました(下図「ヒエログリフの数の表し方」)。ヒエログリフは神聖なものとされ、神や、神と同等とされた*1ファラオを称える石碑や神殿、墓碑などの石に刻まれました。
*1 古代エジプトの王。
●古代バビロニアの楔形文字
*2バビロニアでは、川の岸辺で採れる粘土を使って粘土板を作り、そこに先端をとがらせた葦の茎を押しつけて数を記しました。押しつけた跡が楔形に見えることから、楔形文字と呼ばれています。古代バビロニアでは60ごとに位が1つ上がる六十進法を使っており(補助的に十進法を使うことも)、1と60は全く同じ文字です。
*2 現在のイラク南部を占める地域。
計算することを英語でcalculationと言います。この単語は“石”を意味する「calc」と“~すること”を意味する「-ation」からできていて、ものを数える時に石を使ったことに由来しています。
石を使う計算法は、紀元前3000~紀元前2000年頃、メソポタミア地方で生まれたとされています。砂の上に線を引き、その上に小石を置いて計算しました。紀元前2500年頃になると、盤に引いた線に沿って珠(小石)を並べて計算する、現在のそろばんのようなものが使われ始めました。身近にあった石は、ものを数えるための道具として使われたのです。
石よりも手っ取り早く使えたのが指です。皆さんも指を折って数を数えることがありますよね? 日本を含め、ほとんどの国では十進法が使われていますが、これは人間の指が両手合わせて10本だからという説が有力。6本指だったら、世界中で十二進法が使われていたかもしれません。
古代バビロニアでは六十進法が使われていました。バビロニア人は片手4本の指の関節で12まで数え、もう片方の手で12のまとまりがいくつあるかを数えて、両手で60までの数を数えたと言います。
「60秒で1分、60分で1時間」という時間の計り方を編み出したのは、六十進法を使っていたバビロニア人です。60をひとつのかたまりとしたのは、約数が多く計算しやすかったからだと考えられます。
十進法、六十進法の他に身近なものとして十二進法があります。1年は12か月、1ダースは12個、1グロスは12ダース(12×12=144個)といろいろな場面で使われています。12も2、3、4、6で割り切れる便利な数字です。
デジタルとは、簡単に言うと様々な情報を数に置き換えることです。コンピュータの世界で主に使われるのは二進法で、情報を「0」と「1」の組み合わせに置き換えて処理します。その利点はどこにあるのでしょうか。
二進法を使う最大の理由は、読み取り誤差が少なくなることにあります。スイッチの「オン・オフ」、電流が流れる向きの「右・左」を例に考えてみましょう。二進法では、オンとオフ、右と左に「0」と「1」を対応させます。これを十進法で行うと、0~9の10種類の信号が必要になり、それぞれに対応する情報を厳密に判別しなければなりません。それが二進法の場合だと、信号は「0」と「1」しかないので無しか有りかを判別するだけで良く、中間的なものがないため間違いが起こりにくいのです。
また、コンピュータの世界では、二進法と相性の良い十六進法もあわせて使われています。
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