大学をはじめとする研究機関では、日々、たくさんの研究が行われています。どのような研究があるのか知りたいと思いませんか?
そこで今回は、独立行政法人日本学術振興会の「科学研究費助成事業 ひらめき☆ときめきサイエンス」を紹介します。小中学生・高校生に、最先端の研究成果に触れ、研究のおもしろさを知ってもらおうという体験型のプログラムです。
全国の研究機関で様々なプログラムが実施されているので、ぜひ夏休みに参加してみましょう!
「学術」とは、専門的な研究として行われる学問全てをさす言葉で、日本学術振興会(学振)は、あらゆる分野の研究を支援する、文部科学省所管の機関です。具体的にどのような活動を行っているのか、詳しく伺いました。
日本学術振興会は、研究者を支えるために資金を配分する機関で、研究費を助成したり、若手研究者を支援したりしています。学術研究の助成、若手研究者の育成、国際交流の促進、大学改革の支援などを行っています。昭和天皇から学術奨励のため文部大臣に与えられた御下賜金をもとに昭和7(1932)年に創設され、90年以上にわたり、日本の学術振興を担う機関として様々な事業を展開してきました。
大きな特徴は、あらゆる分野の研究を対象としていることです。文学や歴史学、社会学といった、いわゆる「文系」のものから、数学や工学、農学、医学といった「理系」のものまで全ての分野が支援の対象となります。そのため、全国の大学などの研究機関や研究者から多数の応募があり、審査委員(研究者)による厳正な審査を経て、特に優れたものが採択されています。
近年、日本の研究力の低下が問題になっています。その要因のひとつには、短期的な成果、すぐに結果を出せるような研究が増えていることにあると言われています。真理の追究のような基礎研究、未来の可能性を持つ挑戦的な研究に取り組みにくい状況になっているのです。しかし、社会に変革をもたらすような大きな研究は、様々な研究をコツコツ積み重ねた先にあります。
例えば、2021年にノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎先生は、「最近の日本における研究は、以前に比べて好奇心に駆られた研究が少なくなってきているように思いました」と話しています。眞鍋先生は地球温暖化を科学的に証明した功績で受賞されましたが、研究当初ここまで大きな社会問題になるとは全く思っておらず、好奇心から始めただけだったそうです。
日本学術振興会は、従来、研究者の自由な発想を最も重視しています。基礎から応用まで幅広い研究を対象として、審査により、どの研究段階でも、独創性・先駆性のあるものを採択・支援しています。時間がかかっても新しいことに挑戦するような長期的視野を持った研究を幅広く支援することにより、科学の発展の種をまき芽を育てる上で、大きな役割を果たしています。
日本学術振興会は、研究の成果を社会へ還元、普及する事業も行っています。最先端の研究に触れることを通して、将来を担う子どもたちに研究の興味深さやおもしろさを伝えることを目的とする、小中学生・高校生向けのプログラムを紹介します。
日本学術振興会では、学術と社会をつなぐ事業も行っており、小中学生・高校生と研究者との交流の場を提供しています。現在活躍している研究者が、研究の興味深さやおもしろさを楽しくわかりやすく伝えることで、子どもたちに研究の魅力を知ってもらうこと、未来の研究者を育てるきっかけをつくることが目的です。
2004年から「サイエンス・ダイアログ」、2005年から「ひらめき☆ときめきサイエンス」を開始しています。2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹先生が、「子どもたちに夢を与えるような事業が必要」であり、それがひいては日本の研究力の強化につながるのだと発案されたことで始まりました。どちらも長く続いている人気のプログラムです。
世界の研究を英語で学ぶ
外国の若手研究者を招く制度で来日した外国人研究者が日本各地の高等学校を訪れ、自身の研究や出身国に関する講義を英語で行うプログラムです。高等学校から申し込みを受け、外国人研究者とのマッチングを日本学術振興会が行っています。
これまで約210校の高校が参加し、参加生徒数はのべ約6万人に上っています。世界の様々な研究の講義を英語で受けることで、将来の進路を考えるきっかけになったり、英語の学習意欲が向上したり、参加した学校や生徒からの高い満足度を誇っています。
科研費の成果を体感
現在、大学などの研究機関で取り組まれている科研費による研究を、小中学生・高校生の皆さんにわかりやすい形で直に伝え、好奇心を刺激して“ひらめき”、“ときめく”心の豊かさと知的創造性を育んでもらうプログラムです。これまでの参加者はのべ約8万1千人を超えています。
科研費で採択されているのは厳選された最先端の研究です。その研究成果を楽しく学んでもらえるよう、体験型のプログラムが用意されています。大学などの研究機関を訪れ、実際の設備を使った実験やフィールドワークなどを通して、研究のおもしろさ、いろいろなことを発見する喜びを体感してもらえるようになっています。
とても好評で、何年も続けて参加する人も多く、過去には参加をきっかけに進学先を決めたという人もいました。研究者からも、子どもたちの反応が新鮮で自分自身もおもしろかったという声が寄せられています。ぜひ来年もやりたいと言われることもあり、なるべく多くのプログラムを採択できるようにしています。
全ての地域で参加できる
先述した通り、あらゆる分野を対象とする科研費には全国から応募があり、様々な研究が行われています。ただ、応募数については、文系より理系の方が多く、東京都など研究機関が集中している地域からの応募が必然的に多くなります。ですが、東京都ばかりでは遠方の地域から参加しにくくなってしまいますので、ひらめき☆ときめきサイエンスでは、北海道から沖縄県まで広く実施できるように考慮して採択されています。
例年6月頃から3月頃まで年間約200件のプログラムが実施されています。夏休みや冬休みなどの長期休暇は特に多くなっているので、近くの大学や研究機関はもちろん、遠方でも興味がある分野のプログラムがあれば、旅行がてら、ぜひ参加してみてください。
日本学術振興会 研究事業課より
研究者の方が「自分は勉強をしているつもりはなく、おもしろい、やりたいと思うことをしていたら、それが研究になっていた」と話されているのをよく聞きます。研究者と接する機会はあまりないと思いますので、ぜひ参加して、研究の楽しさを身近に感じてもらえると嬉しいです。
(研究事業課長・脇野 崇さん)
私は研究者になりたいと思っていた時期があり、研究を支援する仕事にやりがいを感じています。研究者の方は独自のとてもおもしろい視点をお持ちなので、そういう視点に子どものうちから触れてもらうと、これから先の世界の見え方、考え方が変わってくるのではないかなと思います。
(特任専門員・樋口 和憲さん)
2022年度(全188件)
人文 その他 中学生向け 高校生向け
見て触って「プラクティス」で考える哲学
筑波大学
土井 裕人先生(人文社会系・助教)
哲学のプラクティクス(実践)に向けて、哲学・思想の文献から重要な概念を3Dプリントしたモデルによる実演や、ワークショップを体験しました。
2021年度(全184件)
医歯薬学 高校生向け
触れて、見て、確かめよう!
~幸せホルモンの分泌を高める癒しの実践と科学~
山梨県立大学
遠藤 みどり先生(看護学部・教授)
ストレスの緩和方法を知るため、オキシトシン分泌のメカニズムを学び、リラクゼーション(背部マッサージ)法の体験と生理的な測定から、その効果を考察しました。
2020年度(全160件)
人文 歴史 小学生5・6年生向け 中学生向け
奈良の都の木簡に会いに行こう! 2020
独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所
馬場 基先生(都城発掘調査部・室長)
本物の木簡を観察したり、木簡の解読、木簡の作成に挑戦したりして、日本の文字文化への理解が深まりました。
2019年度(全228件)
工学 物理 小学生5・6年生向け 中学生向け
電気って何ができるのだろう?
生活を豊かにする電気エネルギーについて学ぼう!!
佐世保工業高等専門学校
猪原 武士先生(電気電子工学科・講師)
エネルギーや放電プラズマについて学び、プラズマボールを作製しました。楽しみながら電気エネルギーへの関心を深めました。
申し込み方法・全プログラムの詳細はこちらから
https://www.jsps.go.jp/j-hirameki/
お問い合わせ先
独立行政法人 日本学術振興会
研究事業部 研究事業課 成果発信係
〒102-0083 東京都千代田区麹町5-3-1 麹町ビジネスセンター
TEL:03-3263-1699
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