2025年1月号特集 国宝を見に行こう!

日本にはいろいろな文化財があります。
そのうち、歴史的・芸術的に価値が高いものは文化財保護法に基づいて「重要文化財」に指定され、その中でもさらに価値あるものが「国宝」に選ばれます。
先人から受け継ぎ、未来へ伝えていくべき“国の宝”には、絵画や仏像、刀剣などの美術工芸品と建造物を合わせて1143件が指定されています(2024年10月1日現在)。
文化史的・美術的・学術的に優れているだけでなく、共有性や普遍性という万人に通じる価値を持つものだけが選ばれる国宝。その一部を紹介します。

国宝を知ろう 国宝入門

国宝はいつ、どのようにして生まれたのか、文化財保護法は何がきっかけで制定されたのか? その背景を知ると、国宝を見た時の感動がひと味違ってくるかもしれません

国宝誕生のウラにアメリカ人あり

 国宝が誕生したのは明治時代。アメリカ人の東洋美術研究家アーネスト・フェノロサ(1853~1908)が廃仏毀釈による文化財の破壊や海外流出を憂いたことがきっかけでした。廃仏毀釈とは、仏教を廃し(=廃仏)釈迦の教えを放棄(=毀釈)するという意味。明治初期に起きたこの運動によって多くの仏教寺院や貴重な仏像・仏画が破壊されたり、売却されたりしたのです。日本美術の価値を高く評価していたフェノロサは、文化財を救おうと私的に調査を始め、後に政府から文化財調査の命を受け、その保護を強く訴えました。
 そして1897(明治30 )年、フェノロサの調査がもととなって日本初の文化財保護に関する法律「古社寺保存法」が制定され、重要な文化財を国宝に指定しました。この法律は1929(昭和4)年、「国宝保存法」に発展し、さらに1950(昭和25)年には現在の「文化財保護法」となりました。

国宝はどのようにジャンル分けされている?
 国宝に指定されている1143件は「美術工芸品」「建造物」に分けられ、美術工芸品はさらに次の7つに分類されます。

絵画……一枚絵、絵巻物、屏風絵、壁画など。
彫刻……仏像や神像。
工芸品……約半数は「刀剣」。他に*1梵鐘や仏具などの「*2金工」、*3蒔絵(箱)などの「漆工」、「*4陶磁」「*5染織」「甲冑」が含まれます。
書跡・典籍……和歌集や経典、物語集など。
古文書……手紙や日記などの文字資料(木簡や石碑なども含まれます)。
考古資料……鏡や土偶など遺跡から出土した文化財。
歴史資料……特定の人物や団体、史実などを知る上で重要な、まとまりを評価された資料群のこと。そのひとつ「伊能忠敬関係資料」は2345点もの資料で構成されています。
*1 寺院にある大きな鐘。
*2 金属細工をする工芸。
*3 漆で絵や文様を描き、漆が固まらないうちに蒔絵粉(金・銀などの金属粉)を蒔いて表面に付着させ装飾したもの。
*4 陶器と磁器。
*5 布を染めることと織ること。

 

国宝豆知識①

最大の国宝は?
 横幅約57m、奥行約50m、高さは約48.7m。江戸時代中期に建設された東大寺金堂(奈良県、通称 大仏殿)が日本最大の国宝です。平安時代末期と室町時代末期の2度焼失しており、現在の金堂は3代目。奈良時代に聖武天皇が創建した当時は今より大きく、幅約88mもあったそうです。
 金堂内に安置されている盧舎那仏坐像(通称 奈良の大仏)は美術工芸品の国宝の中で最も大きく、像高14・98mは4階建てビルに相当します。工事には9年を要し、当時の国民の約半数が動員されたとか。幾度となく戦火に見舞われ破損した部分が多いものの、大仏の下半身や台座には奈良時代当時のまま残っている部分もあります。
 

現在の東大寺金堂(大仏殿)は江戸時代中期に建てられました。

 

国宝豆知識②

国宝を最も多く残した人物は?
 真言宗の開祖・弘法大師空海は7件の著作が国宝に指定されており、最も多くの国宝を残した人物です。その中のひとつ『弘法大師筆尺牘三通』(京都府の教王護国寺所蔵)は、空海が天台宗の開祖・最澄に出した3通の手紙をつなぎ合わせたもので、1通目が「風信雲書」で始まることから『風信帖』とも呼ばれています。空海の書の最高傑作と言われ、二人が最も意気投合していた頃を知る重要な資料でもあります。
 書の他にも、空海が唐から取り寄せた法具や仏画、彼の指示でつくられた建築物や仏像、絵画など、空海の遺品で現存するものはほとんどが国宝に指定されています。
 

国宝豆知識③

最古の国宝は?
 最も古い国宝は、縄文時代の遺跡から見つかった土偶土器です。長野県棚畑遺跡から出土した国宝土偶「縄文のビーナス」は今から約5000年前の縄文時代中期のもの。新潟県の笹山遺跡から出土した火焔型土器を含む深鉢形土器も同時代のもので、57点の土器が国宝に指定されています。

東京国立博物館に国宝を見に行こう 美術工芸品編

2022年に創立150年を迎えた東京国立博物館。所蔵品の数は約12万件に及び、89件の国宝を収蔵。それらの中から通期展示されているものと、2025年1~3月に展示予定の国宝を紹介します。

通期展示

国宝 扁平鈕式銅鐸 弥生時代(中期)・前2~前1世紀 伝香川県出土 平成館考古展示室

表と裏は6つの区画に分けられており、それぞれ異なる絵が描かれています。描かれているのは、トンボ、イモリ、シカを射る人、魚を食べるスッポン、イノシシを狩る人とイヌなど。

国宝 海磯鏡 奈良時代・8世紀 法隆寺宝物館第5室

日本の古代金工美術を代表する大型の鏡です(径45.9㎝、縁の厚さ1.4㎝)。奈良時代に製作された法隆寺の財産目録『法隆寺資財帳』に、聖武天皇の妃だった光明皇后が736年2月22日の聖徳太子の命日に法隆寺に奉納した、とあります。

国宝 墨台、水滴、匙(上から)
中国・唐時代または奈良時代・8世紀(墨台は8~9世紀)
法隆寺宝物館第5室

聖徳太子の文房具として伝えられた作品です。墨台は墨を置く台、水滴は墨をする水を入れるもの。水を汲む匙は、右からひょうたん、蓮の花びら、柳の葉の形をしています。
 

画像の出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/
 

期間限定で展示

●2025年1月2日(木)~13日(月・祝)

国宝 松林図屛風
長谷川等伯筆 安土桃山時代・16世紀 
本館2室(国宝室) 

勢いのある筆使いと墨の濃淡だけで、もやの中に浮かび上がる松林を神秘的に描いています。じっと見ていると、静けさの中にかすかにそよぐ風の音が聞こえてくるような……。日本水墨画の最高峰と評されています。
 

(右隻)
  

(左隻)

●2025年1月2日(木)~3月16日(日)

国宝 木画経箱
奈良時代・8世紀 法隆寺宝物館第4室

表面全体に、菱形と三角形に切った沈香(中国南部で産出される香木)の薄板がはりめぐらされています。合わせ目には黒檀という日本にはない木を挟み込んだ象牙をはめ込み、格子文様を表しています。

国宝 太刀 長船景光(号 小龍景光)
長船景光 鎌倉時代・元亨2年(1322) 本館13室

長船景光は備前(岡山県東南部)で栄えた長船派の刀工。この太刀は景光の代表作。
 


●2025年1月15日(水)~2月16日(日)

国宝  和歌体十種(上)
平安時代・11世紀 本館2室(国宝室)

国宝 和歌体十種断簡(下)
平安時代・11世紀 本館2室(国宝室)
 

中国の詩の分類法にならい、和歌を古歌体、神妙体など十種類に分類して論じたもの。『古今和歌集』の撰者の一人で三十六歌仙にも数えられる壬生忠岑の作ともいわれています。この作品は、その現存する最古の写本。「和歌体十種断簡」は、もとは巻き物の一部だったものです。
 

近くにある国宝を見に行こう! 建造物編

国宝建造物231件の約半数は京都府と奈良県にあります。神社仏閣や城の天守が多いですが、その他にもいろいろな建造物が国宝に選ばれています。近くの国宝を訪ねてみましょう! 

国宝 白水阿弥陀堂(福島県いわき市)
平安時代末期の1160年、当時の浄土信仰に基づき、奥州藤原氏の娘・徳姫によって建てられたと伝えられています。

国宝 旧開智学校校舎(長野県松本市)
1876年建築。小学校校舎として歴代の教員や児童らによって90年近く大切に使われてきました。1949年、現存部分が重要美術品に認定され、1961年重要文化財に。2019年に近代の学校建築として初めて国宝に指定されました。

国宝 円覚寺舎利殿(神奈川県鎌倉市)
円覚寺は1282年、北条時宗が創建。舎利殿は室町時代中期(15世紀)頃に建立されたと推定されています。「佛牙舎利」という釈迦の歯を祀っていることからこの名に。

国宝 久能山東照宮御社殿(静岡県静岡市)
徳川家康公を祀る霊廟として1617年創建。極彩色の御社殿は総漆塗りで仕上げられ、要所に彫刻や錺金具などを用いて荘厳化を図っています。創建当時の質の高い建築・工芸技術を伝える、江戸初期を代表する建造物です。

国宝 彦根城(滋賀県彦根市)
城郭は1622年完成。国宝の天守は3層3階で、*6牛蒡積みと呼ばれる石垣の上に立っています。高さは約21mと大きくありませんが、破風(三角形の屋根)や*7花頭窓が壁面を飾り、華やかな姿が多くの人を魅了しています。

*6 胴長の石を用いて、面積が大きい面を内側にして組み上げる積み方。奥行が深いので強固な石垣に。
*7 窓枠の上部が尖った花弁のようになった窓。

国宝 大浦天主堂(長崎県長崎市)
1864年に建てられた日本最古の西洋建築のひとつ。キリスト教弾圧政策によって長崎で*8殉教したキリスト教信者26人のためにつくられました。ユネスコの世界文化遺産にも登録されています。
*8 自分の信じる宗教のために命を捨てること。
 

国宝 通潤橋(熊本県上益城郡)
近世最大級の石造アーチ水路橋(長さ約78m、高さ約21.3m)です。四方を谷に囲まれ水源に乏しい白糸台地に農業用水を送るため、1854年に建造されました。2023年、土木構造物として初めて国宝に指定されました。
 

国宝 玉陵墓室(沖縄県那覇市)
琉球王国の第二尚氏王統の歴代国王の陵墓。16世紀初頭、尚真王によって父の尚円王を葬るためにつくられました。東室、中室、西室の3つの墓室があります。
 

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