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きっかけは大学の授業

数学に苦手意識を持つ相手に、その魅力を知ってもらうことは容易ではありません。
「たくさんの人に数学の感動を伝えたい。数学を面白いと思ってもらいたい!」と考えた私は、授業などで立体図形を扱うことを始めました。
皆さんは、封筒から正四面体を作ったことがありますか? 
子どもたち相手にこれを披露すると、目を輝かせて喜んでくれるのですよ。
このような直感的な、わかりやすい感動を通して、数学に親しんでもらいたいと考えたのです。
ちょうどその頃、京都ノートルダム女子大学で授業をする機会があったので、そこで何か立体図形を取り上げたいと思いました。
それが、今回ご紹介するイマジナリーキューブ発見のきっかけになりました。

 
     
     

フラクタルな立体図形

皆さんは、シェルピンスキー三角形について聞いたことがありますか?
シェルピンスキー三角形はフラクタルといって、同じ操作を何回も繰り返して描き出せる図形の一つです。
海岸線や人間の腸の内壁など、自然の造形の多くはフラクタルで構成されています。
興味深いですね。

京都ノートルダム女子大学の授業では、これの立体版であるシェルピンスキー四面体を作ることにしました。
まず正四面体を作ります。正四面体は4つの正三角形を持つ立体です。どの面から見ても、どの頂点から見ても正三角形に見えます。ところが、これを辺の方向から見ると正方形に見えるのです。
また、辺の方向から光を当てると、正方形の影ができます。正四面体は、立方体の頂点を1個おきにとってできる立体なんです。下の写真のように、実際に立方体の箱に入れてみると一目瞭然ですね。
次に、最初に作った正四面体の1|2サイズを4個用意します。これらの頂点をくっつけて作った立体は、最初の正四面体と同じ表面積です。
しかし、真ん中に正八面体の穴ができており、体積は半分になっています。これを辺の3方向から見ると、すべての正四面体の2つずつの面が全体で一つの大きな正方形を作ることがわかります。
これをさらに1|2にして16個、64個…と繰り返していくと、体積は半分ずつになっていくのに表面積は変わらないまま。そして、いつも辺の方向からは正方形に見えるのです。
授業では、再帰と呼ばれるプログラミングの概念を教えるため、64個のものを実際に作りました。
これをプロジェクターの光の前で回転させ、シルエットがぴったり組み合わさって四角になった瞬間、教室中に感動が広がりました。
授業に参加してくれた学生たちよりも、私のほうが興奮していたかもしれません(笑)。

 
     
     

HとTとの出合い

私が作ったシェルピンスキー四面体を、京都大学総合博物館に展示してもらえることになりました。
正方形に見えることを利用して写真を貼ってオブジェにしたところ、多くの方に興味を持っていただきました。
私は、このような、立方体と同じく3方向から見て正方形に見える立体をイマジナリーキューブと呼ぶことにしました。シェルピンスキー四面体はフラクタルな立体であり、かつイマジナリーキューブでもあります。
さて、フラクタルなイマジナリーキューブは、他にも存在するのでしょうか?
シェルピンスキー四面体は、1|2の大きさのもの4つをつなげる操作を繰り返してできています。
それでは、1|3の大きさのもの4つではどうでしょうか?
私はそうやってフラクタルなイマジナリーキューブを2つ見つけました。
そして、それらのフラクタル構造の基本となる多面体が、これからお話しするH(重六角錐)とT(反三角錐台)です。

HとTのフラクタル

左(7ページ)のHとTを見てください。
Hは2つの六角錐を底面で貼り合わせた形をしています。
また、Tは三角柱の片方の底面の頂点の周りを切った形をしています。この2つの形は、片方は正六角形、もう片方は正三角形に基づいていて、正方形とは縁がなさそうに見えます。
ところが、どちらも立方体の箱にぴったり収まるのですよ。つまりイマジナリーキューブなのです。
しかも、Hは面から見て正方形になるのですから、対称性から考えると、3方向でなく6方向から見て正方形に見える立体です。8ページにHとT、それぞれがぴったり収まる箱の型紙がありますので、ぜひ、皆さんもイマジナリーキューブの不思議を体験してみましょう。
Hを1|3の大きさにしたもの9つを、Hの8つの頂点とHの中心に配置すると、全体がまたイマジナリーキューブになります。Tについても同様のことができます。これは何回でも繰り返すことができます。
つまり、HとTを基もとにフラクタルなイマジナリーキューブができるのです。
次の写真は、Hに対してこの手続きを2回繰り返してできた立体です。

横から見ても上から見てもきれいな形をしていますね。
さらに、Hと同じように、6方向から見て穴がふさがって正方形に見えるんです。その瞬間の写真は、81個のHが9×9のマス目に並びきれいです。この立体オブジェの81個のHは9色に色分けされています。
正方形に見える6方向のどこから見ても、数独パズルと同じくどの列にも行にもブロックにも9色全てが現れるように色付けしました。面白いでしょう?

 
     
     

 

 

16種のイマジナリーキューブ

これまで正四面体、そしてHとTという3種類のイマジナリーキューブである多面体が現れました。
イマジナリーキューブは立方体を削ってできますが、もうこれ以上削ったらイマジナリーキューブでなくなるぎりぎりの立体(極小凸イマジナリーキューブ)は16種類あることが示せます。
16というのは綺麗な数なので、それら全てを頂点でくっつけることにより全体でイマジナリーキューブになるようにしてみました。
それぞれの要素は違った形をしているのに、ある方向から見たらきれいな正方形に見えるのは、楽しいと思いませんか?

 

数学の美しさについて

数学的に定義された図形そのものを芸術と言えるのかというと、それは違うかもしれませんが、数学的な美しさにも人の心を動かす力があると思っています。
さらに、パズルにしたり、組み合わせ的な楽しさを加味したりして、人を楽しませることができます。
そういったものに接して「もっと知りたい!」と思った時、それが数学を好きになる第一歩になると思うのです。
イマジナリーキューブのことを、「立方体に入った! 気持ちいい!」「HとTの組み合わせ、きれいだなぁ」など思ってもらえたら、とても嬉しいです。
イマジナリーキューブの美しさや、不思議な現象は全て数学的に説明できます。
「誰かが言っていたから」「教科書に書いてあったから」信じるのではなく、自分の手で一つひとつ理由を味わえます。
「わかった!」と納得できた瞬間が気持ちいいんです。
私は、イマジナリーキューブが、皆さんが数学に親しむきっかけになれたらなと思っています。
 
   

ペンローズとエッシャー

立木先生のように、不思議で面白い図形を考案したイギリスの数学者をご紹介しましょう。
ロジャー・ペンローズ(1931年~)は不可能図形の考案者です。
不可能図形とは、「現実には存在が不可能であっても、3次元の物体のように錯覚してしまうもの」を指します。
3本の三角柱がそれぞれ直角に接続している「ペンローズの三角形」や、その三角形を応用した永遠に上り続けても高い所へは行けない「ペンローズの階段」は、皆さんも見たことがあるのではないでしょうか。オランダの画家マウリッツ・エッシャー(1898~1972年)は、ペンローズの不可能図形に影響を受け『滝』や『上昇と下降』などの“だまし絵”を描きました。ペンローズ自身もエッシャーの作品のファンだったそうです。
互いに影響し合っていたのですね。

   
 
 

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