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2019年9月号 特集①

近代化産業遺産を歩こう

近代化産業遺産 33のストーリー

まずは33の遺産群のタイトルを紹介します。
図書館に並ぶ本から一冊を選ぶように、気になる項目を探してみましょう。

  1. 『近代技術導入事始め』海防を目的とした近代黎明期の技術導入の歩みを物語る近代化産業遺産群
  2. 欧米諸国に比肩する近代造船業成長の歩みを物語る近代化産業遺産群
  3. 鉄鋼の国産化に向けた近代製鉄業発展の歩みを物語る近代化産業遺産群
  4. 建造物の近代化に貢献した赤煉瓦生産などの歩みを物語る近代化産業遺産群
  5. 外貨獲得と近代日本の国際化に貢献した観光産業草創期の歩みを物語る近代化産業遺産群
  6. 我が国の近代化を支えた北海道産炭地域の歩みを物語る近代化産業遺産群
  7. 北海道における近代農業、食品加工業などの発展の歩みを物語る近代化産業遺産群
  8. 洋紙の国内自給を目指し北海道へと展開した製紙業の歩みを物語る近代化産業遺産群
  9. 有数の金属供給源として近代化に貢献した東北地方の鉱業の歩みを物語る近代化産業遺産群
  10. 京浜工業地帯の重工業化と地域の経済発展を支えた常磐地域の鉱工業の歩みを物語る近代化産業遺産群
  11. 新潟など関東甲信越地域で始まった我が国近代石油産業の歩みを物語る近代化産業遺産群
  12. 銅輸出などによる近代化への貢献と公害対策への取組みに見る足尾銅山の歩みを物語る近代化産業遺産群 詳細へ
  13. 『上州から信州そして全国へ』近代製糸業発展の歩みを物語る富岡製糸場などの近代化産業遺産群
  14. 『貿易立国の原点』横浜港発展の歩みを物語る近代化産業遺産群
  15. 優れた生産体制等により支えられる両毛地域の絹織物業の歩みを物語る近代化産業遺産群
  16. 激しい産地間競争等を通じ近代産業へと発展した利根川流域等の醸造業の歩みを物語る近代化産業遺産群
  17. 『重工業化のフロントランナー』京浜工業地帯発展の歩みを物語る近代化産業遺産群
  18. 官民の努力により結実した関東甲信越地域などにおけるワイン製造業の歩みを物語る近代化産業遺産群
  19. 近代技術による増産を達成し我が国近代化に貢献した佐渡、鯛生両鉱山の歩みを物語る近代化産業遺産群
  20. 近畿の経済や中部のモノづくりを支えた中部山岳地域の電源開発の歩みを物語る近代化産業遺産群
  21. 我が国モノづくりの中核を担い続ける中部地域の繊維工業・機械工業の歩みを物語る近代化産業遺産群
  22. 『羽二重から人絹へ』新たなニーズに挑み続けた福井県などの織物工業の歩みを物語る近代化産業遺産群
  23. 輸出製品開発や国内需要拡大による中部、近畿、山陰の窯業近代化の歩みを物語る近代化産業遺産群
  24. 京都における産業の近代化の歩みを物語る琵琶湖疏水などの近代化産業遺産群 詳細へ
  25. 我が国鉱業近代化のモデルとなった生野鉱山などにおける鉱業の歩みを物語る近代化産業遺産群
  26. 『軽工業から重工業へ・河岸部から臨海部へ』阪神工業地帯発展の歩みを物語る近代化産業遺産群
  27. 商業貿易港として発展し続ける神戸港の歩みを物語る近代化産業遺産群
  28. 日本酒製造業の近代化を牽引した灘・伏見等の醸造業の歩みを物語る近代化産業遺産群
  29. 『東洋のマンチェスター』大阪と西日本各地における綿産業発展の歩みを物語る近代化産業遺産群
  30. 地域と様々な関わりを持ちながら我が国の銅生産を支えた瀬戸内の銅山の歩みを物語る近代化産業遺産群
  31. 産炭地域の特性に応じた近代技術の導入など九州・山口の石炭産業発展の歩みを物語る近代化産業遺産群 詳細へ
  32. 九州南部における産業創出とこれを支えた電源開発・物資輸送の歩みを物語る近代化産業遺産群
  33. 近代の沖縄経済に貢献した『2つの黒いダイヤ』製糖、石炭両産業の歩みを物語る近代化産業遺産群

今回は、3つのストーリーについて紹介します。これらの遺産群が、日本産業の近代化に
どのように関わったのか、当時の風景を思い浮かべながら、物語の舞台を楽しんでください。
皆さんが住む地域の近代化産業遺産を探してみるのも、おもしろいですよ!

近代化産業遺産の詳しい内容は、経済産業省のホームページを参照してください。
https://www.meti.go.jp/policy/local_economy/nipponsaikoh/nipponsaikohsangyouisan.html

銅輸出などによる近代化への貢献と公害対策への取組みに見る足尾銅山の歩み

1610年に発見され、幕府の御用山として、江戸城や増上寺、日光東照宮などの銅瓦にも使用する銅を大量に産出していました。その後、1877年に古河市兵衛が銅山を買収し(現在の古河機械金属)、経営に乗り出します。近代技術を用いた開発により、多くの*鉱床を発見、さまざまな近代的手法を取り入れて、東洋一の生産量を誇るまでに成長させ、明治以降の日本の近代化と産業化に大きく貢献しました。しかし一方では公害問題(足尾鉱毒事件)も浮上します。古河が独自の有害物質除去装置を完成させ、今日でも世界の鉱山で生かされていますが、最終的には生産量の減少もあり、1973年に閉山してしまいます。

本山(足尾)製錬所足尾銅山から産出された銅を製錬した工場。急激な鉱山の成長に対処するため、各坑口にあった製錬所を1884年、ここに集約します。90年代には日本の銅の40%を産出。
坑内坑道は山の中に縦横無尽に掘られ、距離の総延長は1234㎞。東京から博多までの距離に相当します。現在は「足尾銅山観光」として、足尾銅山の歴史が学べます。
洞坑1885年に開坑され、足尾銅山の大動脈となった通洞坑。約90年にわたり多くの坑員がここを行き来しました。

琵琶湖疎水と関連施設で見る京都における産業の近代化の歩み

幕末の戦災と明治維新による東京遷都により衰退した京都の産業を復興させるため、さまざまな近代化策が取られます。中でも琵琶湖疎水の建設は、京都の町、人々へ恵みの水となりました。琵琶湖疎水とは、琵琶湖の水を京都市内で*1灌漑、給水、舟運、発電などに使えるように切り拓いた水路です。1890年、第一疎水が完成。91年には日本で最初の事業用水力発電所となる蹴上発電所が建設され、舟運のために設けられた*2インクラインに動力が活用されます。その後、電力は製造工場を中心に供給され、95年には、わが国初の路面電車を走らせるなど、紡績や伸銅、機械などの新しい産業を盛んにしました。

蹴上発電所京都市左京区にある日本初の事業用水力発電所。琵琶湖疎水の誕生とともに生まれ、京都の近代化に貢献。現役の発電所として稼働中です。
水路閣南禅寺境内を横断するレンガ製のアーチ型の水道橋。疎水分線に水を通すために作られました。建設当時は景観を壊すと批判の声も多かったようですが、現在は人気の観光スポットでもあります。
蹴上インクライン蹴上船溜りから南禅寺船溜りまで延長582m、高低差約36mのルートを、舟を通行させるために敷設された傾斜鉄道。レールを敷き、台車に舟を乗せてウインチ(巻上機)を動力で動かし上下させました。

産炭地域の特性に応じた近代技術の導入など九州・山口の石炭産業発展の歩み

日本の経済発展に大きく貢献してきた石炭鉱業。江戸時代から採掘が始まり、開国とともに開発が進みます。九州の筑豊、三池、長崎、本州の宇部は一大炭鉱地域として発展。中でも長崎の高島炭鉱は近代技術を駆使した海底炭田の先駆けとなり、三菱社の岩崎弥太郎が端島(軍艦島)とともに本格的な採掘に乗り出します。端島は海底の地下1000mから良質な石炭を産出し、主に八幡製鉄所で製鉄用原料炭として使用され、日本の重工業分野の近代化を支えました。大正・昭和と時代が変わっても石炭産業の発展は衰えません。高層鉄筋アパートが次々に建設され、外観がどんどん軍艦のようになっていきます。しかし、戦後、石炭から石油へとエネルギーは転換。74年の閉山とともに無人の島になってしまいました。

70号棟・端島小中学校1893年開校の三菱社立尋常小学校が前身となる公立小中学校。炭鉱の閉山とともに1974年に閉校となります。中央2本組の石は貯炭場のベルトコンベアの脚です。
第二竪坑、命の階段、総合事務所(右から)主力坑だった第二竪坑坑口桟橋にかかる階段を命の階段と呼びます。危険と背中合わせの坑内から上がってきた坑員はここで命のありがたみを感じたそうです。ここを通って、総合事務所にあるお風呂で汗を流しました。

散策
ルート

軍艦島へは、個人では上陸できません。各船会社が運行する軍艦島上陸ツアーに参加してください。周囲を周遊するツアーもあります。
http://www.gunkanjima-nagasaki.jp/at/(長崎市公式観光サイト)