「SDGs」とは、「Sustainable Development Goals」の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。社会をより良くするために、すべての人が自分にできることに取り組みましょうという、国際連合(以下、国連)が掲げる世界共通の目標です。
近年、教科書やメディアで取り上げられる機会が増えていますが、聞いたことはあるけれど詳しくは知らない、具体的に何をすればいいかわからない、という人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、SDGsの基本的な知識や考え方、行動に移すヒント、中高生などの若い世代が実際に行っている取り組みを紹介します。現役高校生の社会起業家、山口由人さんのお話も伺いました。
皆さんも、SDGsを「自分ごと」として捉え、できることを探してみましょう!
17の目標が一目でわかるアイコン
SDGsは2015年9月、国連総会で採択された「我々の世界を変革する 持続可能な開発のための2030アジェンダ」という文書の一部です。2030年までの達成を目指す、17の大きな目標と具体的な数値などを入れ込んだ169のターゲットで構成されています。誰もが一目で理解できるように、要点をわかりやすく表現した短い言葉を添えたカラフルなアイコンが作られました。日本語訳では、読んだ人に自分のこととして伝わるよう、呼びかけるような言葉が選ばれています。
これまで人類は、新しい技術の開発や経済の成長によって、生活に便利なものをどんどん生み出してきました。しかし、その一方で、気候変動など地球環境へ悪影響を及ぼしてしまっていることが、様々な研究によってわかってきました。また、経済的に豊かな人と貧しい人の差が大きくなり、それが戦争やテロなどの暴力を生み出す原因になっていることもわかりました。このままの状態を続けていては、地球上で暮らしていくことができなくなってしまうという危機感から、世界中の様々な人が解決方法を話し合いました。
その結果として、2001年にMDGs(Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標)が国連でまとめられました。2015年までの目標だったMDGsは、主に発展途上国の経済や社会の開発、格差をなくすことに焦点が当てられており、環境に関するものはほとんどありませんでした。また、未達成の目標も残りました。そこで、経済・社会・環境、それぞれの問題を一体化し、「誰一人取り残さない」という理念のもと、国連加盟国193か国すべてが賛同した、SDGsが誕生したのです。
SDGsの大きな特徴のひとつに、目標だけを設定し、細かいルールが決められていないという点があります。守るべきルールがないため罰則などはなく、達成へ向けて実際にどのような方法で取り組むかは、国や自治体、企業や個人などがそれぞれ自由に考えることができます。ただし、行動した結果、目標に向けてどのくらい進んだかは、国際的な研究機関などにより、様々なデータを用いてきちんと検証されます。年に1回、国際会議が開かれ、進捗状況が報告されています。
国連は2020年から2030年までを「行動の10年」として、SDGs達成のための行動を促進させることを呼びかけています。しかし、2021年6月の報告では、SDGs採択以降初めて世界平均の達成点数が前年より減少しました。新型コロナウイルスによって、経済や教育の格差などの問題が表面化され、この社会が「持続可能」ではなかったことが改めて明らかになったのです。だからこそ、コロナ後、より良い社会を再構築するためにはどうすればいいのか、一人ひとりが考えて行動することが求められています。
SDGsには17も目標がありますが、最初からすべてを達成しようとする必要はありません。
どの目標にどのような方法で取り組むかは自由です。
まずは、それぞれの内容を詳しく知ったり、様々な取り組み例を見たりして、自分が特に大切だと思うこと、自分にもできそうだと思うことを見つけましょう! そのために役立つサイトや本を紹介します。
「Go Goals」は、ブリュッセルの国連地域広報サービスが作成したすごろくで、国連広報センターのサイトからダウンロードできます。すごろくの盤上には63個のマス目があり、「2030」のゴールに最初にたどり着いたプレイヤーが勝ちです。SDGsの17の目標のいずれかのマス目で止まったらクイズのカードを引き、正解を答えればもう一度サイコロを振ることができるルールで、楽しみながらSDGsについて学べます。
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/go-goals/
株式会社サンリオの人気キャラクター、ハローキティがSDGsの普及に取り組んでいます。国連本部とも協働し、公式YouTubeチャンネル「HELLO KITTY CHANNEL」で、SDGsに関する世界の取り組みを紹介しています。ハローキティが視聴者と同じ目線でSDGsを学びながら、率直な思いを語る親しみやすい動画が話題になっています。
https://www.hellosdgs.com/
どちらも中高生から応募できるコンテストです。過去の受賞作品が紹介されているので、中高生ができること、実際に取り組んでいることを見てみましょう。他にもSDGsに関するコンテストは多く開催されているので、調べて、実際に応募してみるのもおすすめです。
SDGs探究AWARDS https://sdgs-awards.umedai.jp/
大学生による中高生のためのSDGs/サスティナビリティアワード https://www.sdgs-award.com/
国連は、SDGsの達成へ向けて日常生活ですぐに取り組めることを「ナマケモノにもできるアクション・ガイド」として提案しています。その一部を紹介します。
レベル1 ソファに寝たままできること
◦電気を節約しよう。電気機器を電源タップに差し込んで、使ってない時は完全に電源を切ろう。もちろん、パソコンもね。
◦いいね! するだけじゃなく、シェアしよう。女性の権利や気候変動についてソーシャルメディアでおもしろい投稿を見つけたら、ネットワークの友達にシェアしよう。
◦印刷はできるだけしない。覚えておきたいことをオンラインで見つけたら、どうするかって? ノートにメモしたり、もっといいのはデジタル付箋を使って、紙を節約すること!
◦照明を消そう。テレビやコンピューターの画面は意外と明るいから、必要ない時にはそれ以外の照明を消しておこう。
◦オンライン検索すると、持続可能で環境にやさしい取り組みをしている企業が見つかるよ。そういう会社の製品を買うようにしよう。
レベル2 家にいてもできること
◦ドライヤーや乾燥機を使わずに、髪の毛や衣服を自然乾燥させよう。衣服を洗う場合には、洗濯機の容量をフルにして使おう!
◦生鮮品や残り物、食べ切れない時は早めに冷凍しよう。翌日までに食べられそうにないテイクアウトやデリバリーもね。そうすれば、食べ物もお金も無駄にしなくて済むからね。
◦紙やプラスチック、ガラス、アルミをリサイクルすれば、埋立地を増やす必要がなくなる。
◦窓やドアの隙間をふさいでエネルギー効率を高めよう!
◦エアコンの温度を、冬は低め、夏は高めに設定しよう!
レベル3 家の外でできること
◦買い物は地元で! 地域の企業を支援すれば、雇用が守られるし、長距離トラックの運転も必要なくなる。
◦「訳あり品」を買おう! 大きさや形、色が規格に「合わない」という理由だけで、捨てられてしまうような野菜や果物がたくさんあるよ。
◦買い物にはマイバッグを持参しよう。レジ袋は断って、いつもマイバッグを持ち歩くようにしよう。
◦使わないものは寄付しよう。地元の慈善団体は、あなたが大事に使っていた衣服や本、家具に新しい命を吹き込んでくれるはず!
◦国や地方自治体のリーダーを選ぶ権利を上手に使おう。
SDGs研究の第一人者として知られる著者が、「誰一人取り残されない」という理念のもとに生まれたSDGsとは何か、経済・社会・環境にまたがる17の目標を若い世代に向けてわかりやすく解説する入門書。同著者の、『SDGs(持続可能な開発目標)』(中公新書)もおすすめです。
SDGsをもっと身近に、気軽に始められるように、「S(すぐ)D(できることから)G(がんばって)s(しよう)」を提案する本。「知る」で日本と世界の問題点を知り、「考える」で問題の解決方法を考え、「する」で日本人の取り組みを紹介し、「レッツ!こどもSDGs」で今すぐできる身の回りのミッションを考えていきます。
社会に対してアクションを起こす同世代が増えてほしい、そのための環境を整えたいと、高校に通いながら様々なプロジェクトを手がける山口さん。団体設立のきっかけや、SDGsへの考え方、同世代へのメッセージなどを伺いました。
【山口 由人(やまぐち・ゆうじん)】
2004年生まれ。
一般社団法人 Sustainable Game代表理事。幼少期をドイツで過ごし、難民問題に関心を持つ。帰国後、SDGsの達成へ向けて取り組みたいと考え、イベントを企画。2020年に一般社団法人 Sustainable Gameを設立し、Ashoka Youth Ventureに認定される。日本の入国管理局収容所の人権問題の映画を制作するなど、難民と在留者、中高生と企業といった二項対立をなくすための活動を幅広く展開している。
──どのような活動をされているのですか?
社会問題に興味はあるけれど参加しにくいという同世代に気軽に参加してもらえるようなプログラムを企業の方と協力して提供しています。中高生と社会人が互いに理解しあって、持続可能な未来を共創していける世の中をつくるために活動しています。
──SDGsに興味を持ったきっかけや団体設立について教えてください。
僕は、シリア難民が社会問題となっていた時期のドイツで小学生時代を過ごしました。日本人である自分もドイツではマイノリティで、難民側に共感を覚えましたが、助けになるようなことは何もできませんでした。そんな無力感を抱えたまま日本に帰国し、中学校の授業でSDGsを習いました。ドイツでも目にする機会はあり、世界最大の社会実験という認識でしたが、授業では具体的な方法を教わらなかったので、どうすればいいんだろう、自分には何ができるだろうと考えたのがきっかけです。
最初に気づいたのが、社会問題は見ただけではわからないということです。例えば、日本にも難民はいますが、容姿だけでは他の外国人との違いを判断できません。だから社会問題を解決するには、まず、悩みがあることに気づける、課題を発見する力が必要なのだと思いました。そこで、友達に声をかけて、SDGsの目標をランダムにひとつ決めて、街を歩きながらその目標に関する課題を見つけて話し合う、という遊びのようなことを始めました。とても良かったので続けたい、もっと広げたいと団体を立ち上げました。今では30人を超えるメンバーがいて、関東だけでなく、関西や九州からも参加してくれています。
──今の若い世代は社会問題に関心が高いと言われていますが、どう感じますか?
何かしないと駄目なんだろうな、という共通認識はあると思います。ただ一方で、希望がないというか、自分が何かしたところで社会は変わらないと諦めてしまっている人も多いように感じます。
ですが僕には、実際に活動してみて、社会が変わってきたなという実感があります。最初は企業の方に話を持ちかけても相手にされないことも多かったのですが、最近では、環境問題などを最初に周知し始めた世代の直感的な意見を聞きたい、といったお問い合わせがかなり増えました。だからこそ、同世代の皆にも自分の意見が社会や大人にきちんと伝わるという経験をしてもらいたいと思っています。
──学校との両立は大変ではないですか?
とても大変です(笑)。成績もすごく良いわけではないので、平日は1時間数学、休日は3時間英語をやるなど、スケジュールを立てて勉強しています。自分が決めたことなので、誰のせいにもできないですし、大変でもやりきるしかない。それが難しさでもあり、楽しさにもなっています。
──今後の予定を教えてください。
金銭や生活の心配がない中高生という立場だからこそ、考えられること、発見できることがあると思っているので、団体の代表は夏頃に引き継ぐ予定です。部活と同じで高3の夏に引退という感じですね。その後は普通に受験勉強をします(笑)。大学に進学して、これまで活動してきたからこそ得られたこと、これは大事だな、もっと知りたいなと思ったことを、今度はアカデミックやサイエンスの分野から深く学んでいきたいと考えています。
──SDGsや社会問題に関心がある同世代の皆さんへ向けてのメッセージをお願いします。
とにかく行動してみることが大事だと思います。団体の活動に参加してみたり、大学の研究室に行ってみたり。募集をしていなくても問い合わせたら入れるところも多いので、興味を持ったらぜひ実際に行ってみてください。他に、寄付なども社会貢献になりますし、将来政治家になって社会を良くしたいから今は勉強を頑張る、というのもとても良いと思います。小さなことでも、何かを自分で決めて取り組むと、世界が広がっていく感覚が味わえるはずです。
個人的には、SDGsが生まれた現代は、人類の歴史の中でも特におもしろい時代だと感じています。これまで、国や人種、性別も世代も関係なく通じる、社会を良くするための共通の目標など存在しませんでした。SDGsは、世界共通の課題を自分なりに考えることができる、絶好のツールです。世界中の人がSDGsにどう取り組んで、結果として世界がどう変わっていくのかを、一緒に楽しみましょう!
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