2021年12月、実業家の前澤友作さんが日本の民間人として初めて、国際宇宙ステーション(ISS)に12日間滞在したことが話題になりました。宇宙旅行がSF映画や物語の中だけのものではなく、実現可能であることを感じさせてくれるニュースでしたね。
宇宙事業は、これまでは国の主導で行われてきましたが、近年は多くの民間企業が参入し、新たな時代を迎えています。そんな中、宇宙開発の対象として熱い視線が注がれているのが、月と火星です。月面基地の建設や火星への移住など、現在進められている計画の最前線にせまりました。
1961年、ソ連(現在のロシアと周辺国)のユーリ・ガガーリンがボストーク1号で地球軌道を周回したのが宇宙への第一歩でした。まずは、これまでの宇宙開発史を振り返りましょう。
この時期、冷戦状態にあったソ連とアメリカは激しい宇宙開発競争を繰り広げていました。宇宙への扉を先に開いたのはソ連でしたが、1969年にはアメリカの宇宙船アポロ11号が月に着陸し、ニール・アームストロングが人類史上初めて月面に降り立ちました。両国が相手の先手を打とうと熾烈に競い合い技術力を高めたことで、宇宙開発は飛躍的に進歩したのです。
その後、冷戦状態が緩和し世界的に協調ムードが高まったことで、十数年に及んだ米ソ間の宇宙開発競争は終結へ。宇宙開発は国がそれぞれ独自に行うのではなく、各国が力を合わせて進めようという機運が生まれました。こうした国際協調のもとで誕生したのが、国際宇宙ステーション(ISS)です。
近年は、民間宇宙企業の躍進が目立っています。アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏は2000年に宇宙企業ブルーオリジンを設立。2021年7月、独自開発した宇宙船「ニューシェパード」に乗り込み、有人飛行を成功させました。また、スペースXは電気自動車テスラの経営者であるイーロン・マスク氏が2002年に創業したベンチャー宇宙企業で、2020年11月に民間企業として初めて、ISSに宇宙飛行士を送り込み、大きな話題となりました。
宇宙開発と研究の拠点としての役目を担うISSは、使用開始から20年以上が経ち老朽化が進んでおり、2030年代には寿命を迎えると予想されます。宇宙での人類の活動は、ISSでの研究から、月や火星に人を送るという新しい局面に入りつつあります。進行中の計画について詳しくご紹介しましょう。
アメリカ航空宇宙局(NASA)が主導する「アルテミス計画」は、アポロ11号が月面に着陸して半世紀が経った今、再び月に人類を送ろうという計画です。日本を含めイギリスやオーストラリアなど複数の国が参加している国際プロジェクトの中身と目標について解説します。
アルテミスとはギリシャ神話の月の女神の名前です。このアルテミス計画で重要な役割を持つのは、月の軌道上に建設される宇宙ステーション「ゲートウェイ」です。地球と月の中継基地として使われ、最終的には火星への有人探査飛行の際の基地にすることを想定しています。
ゲートウェイは“入り口”という意味で、文字通り、未来に向けた宇宙開発の入り口になるものと言えるでしょう。ゲートウェイの建設は、現在のところ、2024年頃から開始される予定です。
2030年代には月面探査が本格化するとみられており、それを支える拠点となるゲートウェイ。初期には無人月面資源探査機を地球から制御する通信の中継基地として使われ、月面基地(後述)が完成した後は地球から月への物資輸送の中継基地として使われることに。また、月面探査中に何らかの事故が発生した場合には、緊急の避難所としても役立てられるでしょう。
ゲートウェイのもうひとつ重要な役割は、火星への有人飛行の基地になること。地球からの距離は月までは約38万㎞ですが、火星までは最短で約5500万㎞もあり、ロケットで片道7~8か月かかるため、大量の燃料が必要です。おそらく火星に到着するまでに燃料を使い果たしてしまうでしょう。しかし、ゲートウェイに燃料満タンのロケットを待機させておけば、火星への探査飛行は容易になることが予想されます。将来、人類を火星に送るために、ゲートウェイの建設は欠かせないのです。
アルテミス計画の目的のひとつは、有人月面探査です。月面で様々な活動を行うためには活動拠点となる月面基地の建設が必要で、そのための準備が進んでいます。
基地づくりと同時に開始されるのが、水資源の探査です。有人探査に先立って行われた無人の観測で、月の南極付近のクレーターには水資源が眠っていそうなことがわかっており、その量は100億トンとも言われています。これを見つけられれば飲用水が確保でき、食料となる植物を栽培できる期待がふくらみます。また、水を分解して水素と酸素にし、水素はロケット燃料や燃料電池に、酸素は宇宙飛行士の呼吸用に利用することも検討されています。
現状では、月面はヒトが生きていくには過酷な環境にありますが、次に挙げた問題をクリアできれば、月に住むことは充分可能です。
①水と酸素をつくる
②人間が安全に暮らせる住居をつくる
③自給自足で食料をつくる
④エネルギーを自給自足する
⑤完全に閉鎖された空間の中で自律的に生命を維持できるシステムをつくる
これらについては、すでに実現に向けた対策が進められています。
ゲートウェイは2028年頃に完成する見込みで、その約70年後の2100年頃には、月面基地は1万人が働く大都市に――。こんな未来像を思い描くことができます。水資源が見つかり開拓が一気に進んだとすると、エネルギーを自給自足できるようになった月は、地球にエネルギーを供給する一大拠点になっていることも考えられます。
月面都市はまた、人類が太陽系に飛行する際の出発基地となる役割も担います。重力が地球の6分の1しかない月面からは少ない燃料で飛行できるため、2050年代から本格化するとみられる火星開拓のベースキャンプとして、月はうってつけなのです。この頃には月が人気の観光スポットになっているかもしれませんね。
NASAが月の先に見据えているのが火星です。2030年代初めには火星での有人探査を実現したいとしています。有人探査の先に想定されるのが火星への移住で、時間をかけてヒトが住める環境につくりかえ、最終的には火星を第二の地球に――と提唱する研究者も。火星探査の現状と未来予測をまとめました。
2021年はアラブ首長国連邦(UAE)、中国、アメリカの火星探査機が相次いで火星に到達した“火星探査ラッシュの年”でした。順に見ていきましょう。
先陣を切ったのはUAEです。中東初の火星探査機「アマル」が、火星の周回軌道への投入に成功しました。「アマル」は2020年に種子島宇宙センター(鹿児島県)から、日本のH–ⅡAロケットで打ち上げられたもの。UAEは2117年までに火星都市を建設することを目指していて、その第一歩となる試みです。
UAEに続き、中国初の火星探査ミッションとして「天問1号」が火星に到達しました。地表に降り立って土や気候などの調査を行っており、2020年7月には「天問1号」が撮影した火星表面の画像が公開されました。
NASAの火星探査機「パーサヴィアランス」が火星に着陸したのは、アマルと天問1号が火星に到着した約10日後。土壌や岩石などを採取し分析するのが目的で、これらの試料(サンプル)は地球に持ち帰り、高度な分析を行うことにしています。
この「マーズサンプルリターン」計画(マーズ=火星)は、NASAと欧州宇宙機関(ESA)が共同で進めているもので、最大のミッションは、太古の火星に存在したとみられる生命の痕跡を見つけること。それを発見できれば、生命誕生の核心にせまれるかもしれないのです。
収集したサンプルを地球に持ち帰るのは2031年頃の予定で、もし成功すれば、NASAが目標とする2033年までに火星に人類を送り込む計画にも弾みがつくでしょう。
現在の予測では、10年後の2030年代には火星への有人飛行が実現します。その後、宇宙開発はどこまで進展していくのでしょうか?
■︎2040年代
◦NASAとESAが協同で火星の活動拠点を拡張
■2050年代
◦アメリカの会社スペースXが火星都市の建設を開始。移民の輸送を始める
◦宇宙エレベーターが実用段階に
◦地球軌道上に民間の様々な施設が誕生
◦宇宙旅行が大人気に
■2100年代頃までに
◦スペースX、火星に1万人規模の都市を建設
◦アラブ首長国連邦(UAE)、2117年までに火星都市を建設
2040~2050年代には、関塾生の皆さんは20~40代になっています。もしかしたら世界初の火星の移民団に加わっていたり、大奮発して家族と一緒に月の軌道を周回する宇宙ホテルに滞在していたりするかもしれません。あるいは、お客ではなく宇宙ホテルで働いている可能性もあります。月や火星を眺めながら、そんな未来に思いを馳せてみませんか?
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