ロシアが隣国のウクライナに侵攻したのは2022年2月。それから2年以上経過した今も終息の兆しは見えていません。2023年4月にはアフリカ東部の国スーダンで紛争が起き、数百万人が避難しました。10月には、中東のパレスチナ自治区ガザ地区を支配するハマスとイスラエルの間で争いが勃発。双方に多くの死者が出ています。日本にいると実感しにくいですが、世界では常にどこかで戦闘や紛争が起きています。これらの争いがなぜ起きたのか、背景に何があるのかをしっかりと理解しておきましょう。
ロシアのウクライナ侵攻から約2年2か月が経ちました。両軍で大きな被害が出ているにもかかわらず、戦闘終結への道筋は依然、見通せないままです。
2024年2月25日、ウクライナのゼレンスキー大統領は記者会見で、「これまでのロシア軍との戦闘で自国軍の兵士約3万1千人が死亡した」と明らかにしました(負傷者数は公表せず)。一方、ロシア軍の戦死者は18万人、負傷者数は最大50万人に達するという推計を発表し、ウクライナ軍の損害の方がはるかに少ないと強調しました。
ロシアは自国軍の人的損失を公表していませんが、アメリカ国防総省はロシア軍の死傷者数は少なくとも31万5千人に上ると分析(2024年2月)。こうした人的損失に物的被害(戦闘車両や兵器など)を加えると、両軍の損失は甚大な規模になります。
それでもなお戦闘の終わりは見えず、さらに長引くことが予想されています。
2022年2月24日、ロシアが隣国のウクライナへの侵攻を開始しました。ロシア軍はウクライナの首都キーウなどにミサイル攻撃や空爆を行い、東部や南部の州を占領。ロシアのプーチン大統領はこの侵攻を、「自国の安全を守るため」と発言しています。これは何を意味するのでしょうか?
かつてロシアとウクライナは、ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)を構成する国でした。1991年にソ連が解体されるとウクライナは独立しますが、同じソ連だった国の中でも、ロシアはウクライナに対し“同じルーツを持つ兄弟国”という意識を強く持っています。プーチン大統領は、「もともとソ連のものだった領土をロシアが取り戻すのは当然だ」と主張し、ウクライナを支配下に置きたいと考えているのです。
プーチン大統領は「NATO(北大西洋条約機構)がロシアを脅かしている」とも主張しています。敵対関係にあるNATOの勢力が拡大していることを脅威に感じているのです。ウクライナがNATOへの加盟を希望したことが、ロシアをさらに追い詰めました。プーチン大統領は、なんとしてもそれを阻止しようとウクライナへの侵攻を決断しました。
NATOは、2023年4月にフィンランドが、2024年3月にスウェーデンが正式に加盟し、加盟国は32か国に。ロシアは、友好国ではない国々と国境を接して隣り合うことになり、NATOが東方へ徐々に拡大し、組織力を強めていることに危機感を抱いています。
この戦闘がどのような結末を迎えるのか、現時点では誰も予想できません。戦闘が長期化する中で、人々の関心が薄れていくことが心配されます。これからも両国の動きを注意深く見ていきましょう。
北大西洋条約機構(NATO)
アメリカ、カナダ、西ヨーロッパの計12か国が、ソ連(現在のロシアなど)から国を守るため、1949年につくった軍事同盟。ソ連解体後、加盟国が増え、現在は32か国に。加盟国への攻撃は、NATO全体への攻撃とみなされます。
アフリカ北東部に位置するスーダンで紛争が起きたのは、2023年4月15日。紛争の影響で、今も多くの人々が国内外で避難生活を強いられています。
スーダン共和国
•面 積 188万㎢(日本の約5倍)
•人 口 4281万人
•首 都 ハルツーム
•宗 教 約7割がイスラム教
•大統領 2019年から不在
争っているのは、スーダン軍(国軍)と、準軍事組織の「即応支援部隊(*1 RSF)」です。RSFは “第2の軍”とも言える、法律で認められた治安部隊。つまり、本来は国を守るべき組織同士が権力をめぐって戦っているのです。
きっかけは、国軍にRSFを統合することでした。両者は、幹部のポジションや統合するまでの期間などで意見が食い違い、次第に対立が激化。戦闘へと発展しました。
首都のハルツームでは大統領宮殿や空港を取り合って銃撃戦が繰り広げられ、多くの民間人が犠牲になりました。国連の発表によると、犠牲者は1万3千人以上、負傷者は2万6千人に達しています(2024年1月21日付)。また、ユニセフ(国連児童基金)は2024年2月9日、国連の定例会見で、スーダンでは400万人の子どもが避難生活を余儀なくされており、これは世界最大の人道的危機だと訴えました。
*1 Rapid Support Forcesの略。
スーダン西部ダルフール地方で2003年、ダルフール紛争が勃発しました。政府のアラブ系民兵と反政府勢力による武力衝突で、約30万人が犠牲になり、難民・避難民の数は約200万人にも上りました。
RSFは、ダルフール紛争の際、黒人系(非アラブ系)の反政府勢力を弾圧するために、当時のバシル大統領が利用したアラブ系の民兵組織が前身です。バシル大統領は、国軍のクーデターを恐れてその後もRSFを使い続けたので、国軍と対抗できるほどの勢力を持つようになりました。
スーダン紛争を終わらせようとする試みも行われています。
国連をはじめ、アフリカ連合やアメリカ、サウジアラビアなどが仲介役となり、これまでに度々、停戦交渉が行われました。両者は停戦に応じるとの意向を示すものの、その都度、約束を破って交渉は決裂。戦闘が収まる気配は見えません。
イスラエル軍とパレスチナ自治区のイスラム組織ハマスの戦闘による犠牲者は、ガザ地区だけで3万人を超えました(2024年2月29日現在)。このうち、少なくとも5千人以上が子どもであると報告されています。
パレスチナ紛争とは、パレスチナの土地をめぐってユダヤ人とアラブ人(パレスチナ人)が争っている紛争のことです。世界で最も長く続いているこの争いは、“世界で最も解決が難しい”とも言われています。
パレスチナとイスラエルの対立は75年以上にも及び、互いに憎しみを増幅させる悪循環に陥っています。紛争の原因を探ってみましょう。
【イスラエル】
•面積 2万2072㎢
(日本の四国程度)
•人口 974万人
•首都 エルサレム*
•宗教 ユダヤ教(74%)
イスラム教(18%)
キリスト教(2%)
*日本を含め国際社会の大多数には認められていない。
【パレスチナ自治区】
•面積 6020㎢
ヨルダン川西岸地区 5655㎢(三重県と同程度)
ガザ地区 365㎢(福岡市よりやや広い)
•人口 548万人(ヨルダン川西岸地区 約325万人、
ガザ地区 約222万人)
•宗教 イスラム教(92%)、キリスト教(7%)
13世紀〜20世紀の初めまで、中東は強大なオスマン帝国が支配していました。領土内にはいろいろな民族が暮らしていましたが、宗教や言葉の自由が認められており、それぞれ平和に共存していました。
1914年に第一次世界大戦が始まると、オスマン帝国は、敵対するロシアと戦っていたドイツなどの同盟国側について参戦したものの敗退。帝国は解体されます。この時、イギリスやフランスがオスマン帝国の領土を、民族や宗派を無視して分割したことで、これらの地域は独立後も、国としてまとまることが難しくなったのです。
“三枚舌外交”とは、第一次世界大戦中にイギリスが行った外交政策です。三枚舌は、つじつまの合わない3つの嘘をつくという意味。イギリスがついた嘘とは、どんな内容だったのでしょうか?
イギリスは第一次世界大戦を有利に進めるため、オスマン帝国に支配されていたアラブ人や、パレスチナを追われ各地に分散していたユダヤ人の協力を得ようと、アラブ人には独立国家の建設を約束し、ユダヤ人にもユダヤ人の国をつくることを認めると約束。一方でフランスとロシアには、オスマン帝国の領土を3国で分割して植民地にしようという密約を交わしていました。この3つは互いに矛盾する約束だったことから、民族間の対立を生み、これが今日まで続く紛争の火種になっています。
ユダヤ人は、イギリスとの約束に従ってパレスチナに自分たちの国をつくろうと移住してきますが、同じように独立国家の建設を認めると約束されたアラブ人との間で対立が起きます。この対立は第二次世界大戦後まで続きました。
対立の原因をつくったイギリスは、この問題の解決を国際連合(国連)に委ね、国連は1947年、パレスチナをユダヤ人国家とアラブ人国家に分割する決議を採択します。しかし、古くからこの地に住むアラブ系住民や周辺のアラブ諸国はこれに反発し、ユダヤ人との対立が激化。翌1948年にユダヤ人国家のイスラエルが建国されますが、これに反対するアラブ諸国がイスラエルに攻め込んで中東戦争が勃発。その後、1973年までに4度の大きな戦闘が繰り広げられました。この戦闘でパレスチナに住んでいた多くのアラブ系パレスチナ人は土地を追われ、難民となりました。
イスラエルとパレスチナが和平に向けて動いた時もありました。1993年、イスラエルと*2パレスチナ解放機構(PLO)は、パレスチナ国家を樹立し、イスラエルと共存する案に合意。「パレスチナ暫定自治協定」に調印し、ガザ地区とヨルダン川西岸地区はパレスチナ人による自治区となりました。しかし1995年には、協定に調印したイスラエルのラビン首相が和平反対派の青年に暗殺され、2国家共存の道は閉ざされてしまいました。
その後も歩み寄りは進まず、2000年以降は、ハマスのテロ攻撃と、イスラエル軍の報復攻撃が繰り返されるように。紛争解決への道のりは遠いままです。
*2 パレスチナ解放を目指すアラブ人の統一指導組織。
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