2024年10月号特集① 本との新しい出会い方 ―未知の世界の扉を開こう

2024年10月号特集① 本との新しい出会い方 ―未知の世界の扉を開こう

 本と出会える場所と言えば、地域の書店や図書館、学校の図書室などですね。しかし、時代の流れとともにまちの書店はどんどん姿を消しています。そんな中、本を通じて本と人、人と人とをつなぐ「まちライブラリー」が全国に広がっています。まちライブラリーは何がきっかけで誕生したのか、どんな場所にあるのか、どんなことができるのか、提唱者の礒井純充さんにお話を伺いました。

まちライブラリー提唱者
礒井 純充(いそい よしみつ)さん

1958年大阪市生まれ。一般社団法人まちライブラリー代表理事。大阪府立大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。経済学博士。1981年、森ビル株式会社入社。社会人教育機関「アーク都市塾」、産学連携・会員制図書館「六本木アカデミーヒルズ」などを立ち上げる。2011年に「まち塾@まちライブラリー」を開始。以降、「まちライブラリー」の提唱者として活動の運営・サポートを行う。著書に、『本で人をつなぐ まちライブラリーのつくりかた』(学芸出版社)、『ブックフェスタ 本の磁力で地域を変える』(共著、まちライブラリー)、『「まちライブラリー」の研究 「個」が主役になれる社会的資本づくり』(みすず書房)などがある。

まちライブラリー 人と人をつなぐ私設図書館

 第1号のまちライブラリーは2011年、大阪市で誕生しました。以来、全国に広がり、現在は全国に1100か所以上あります。まずは、そんなまちライブラリーの紹介から。

「まちライブラリー」とは?

 本を持ち寄り、閲覧したり貸し借りしたりして人とつながることを目的とした、誰でも始められる私設図書館です。本を持っていてもいなくても、みんなに呼びかけ、寄贈してもらった本で始めることもできます。

●メッセージカードに感想を書き合う
 まちライブラリーに並んでいる本は、買って揃えたのではなく、個人で所有していたり、みんなで持ち寄ったりしたもの。本には、持ち主が本への思い入れや思い出などを書いたメッセージカード「みんなの感想カード」がついていて、読んだ人は自分の感想を書き込めるようになっています。「みんなの感想カード」は折りたたみ式で、次々に感想を書き連ねることができます。
 同じ本でも読む人によって感じ方が違ったり、自分が書いた感想に他の人が反応したり……。読者同士のつながりがうまれるこの仕組みは、まちライブラリーの特徴のひとつです。

▲「みんなの感想カード」には、本の持ち主のメッセージと、読んだ人の感想がぎっしり!

こんなところにあります 設置場所は様々

 下に示したように、運営する人は個人や企業、法人、団体など様々。設置場所も多岐にわたります。
 「まちライブラリーは、小さなものから大きなものまでいろいろあります。オーナーが個別の思い、やり方で始められ、それぞれが独自に自分の“色”を出して運営しています」(礒井さん)。

 これまでに設置された場所の一例  個人宅 、コミュニティ施設、店舗、事務所、病院、歯科医院、カフェ、寺社、銭湯、菜園、蔵、山小屋、大学、市役所、駅、公園など

データで見るまちライブラリー(いずれも2024年8月7日現在)

●運営しているのは?
最も多いのは個人で全体の6割近くを占めます。小規模な仲間や団体が始めるケースも。

●都道府県別の件数は?
合計1161件。すべての都道府県にあります。近くのまちライブラリーを探してみよう。
https://machi-library.org/

●まちライブラリー@もりのみやキューズモール(大阪市中央区)
商業施設の中にあり、カフェやキッズ・スペースを併設。会員数は1万人を突破(2024年6月末)。年間来場者数は同区の公共図書館の来場者を上回るほどで、多くの人に利用されています。

本をきっかけに生まれる人と人とのつながり

 まちライブラリーが全国に広がった理由とそのきっかけ、まちライブラリーが行っているイベント、礒井さんの本とのエピソードなどについて伺いました。

ゆるやかさが魅力

 〈本を核に本や人との出会いを目指す活動であれば、まちライブラリー〉――。まちライブラリーは、こんなゆるやかな定義のもとでスタートしました。やり方の自由度が高いので、“私にもできそう”と始められる人が多いですね。門戸を開いたことが、全国に広がった大きな理由だと思います。
 特に決まった規則はありませんが、
◦小規模な本棚や本でも活動でき、個人でも気軽に始められる
◦本を媒介として、本を通じて人とのつながりを感じる活動を推奨する
――など5つの軸を活動の原則としています。目指したのは、“本に関する活動をしたい人が、誰でも、どこでも、やりたいと思ったら気軽に始められる”ことでした。

本を植えて本棚を育てる「植本祭」

 まちライブラリーが注目され始めたのは、2013年、まちライブラリー@大阪府立大学(現 大阪公立大学。2023年3月閉館)が大学サテライトキャンパス内に開設されたのがきっかけです。ここは“蔵書ゼロ冊からの図書館”。寄贈を募ったところ、次から次に本が集まって本棚が埋まり、約3年で1万冊を超えました。
 本を集める方法として考えたのが「植本祭」です。木を植える植樹祭から発想し、“本を植えて本棚を育てる”という意味を込めました。「植本祭」に参加する人には寄贈する本を持参してもらい、本や自分自身のことを紹介してもらいます。このイベントを通して、人と人をつなぐのに本はとても向いていると改めて感じました。と同時に、初めから本を用意しなくても、みんなで“本棚を育てる”というやり方があることにも気づかされました。

▲まちライブラリー@もりのみやキューズモール

▲植本祭の様子。持ってきた本を通して自己紹介します。

いろいろなまちライブラリーを紹介

 全国に約1100あるまちライブラリーの中から、6か所をピックアップしました。思いがけない本や人との出会いが待っているかも!

まちライブラリー@ちとせ(北海道千歳市)

 2021年3月に惜しまれながら閉鎖した「まちライブラリー@千歳タウンプラザ」が、市民の署名活動などを経て復活しました。北海道や千歳市の本が充実しています。

まちライブラリー@ふくやま病院(兵庫県明石市)

 病気や怪我を治すためだけに来るのではなく、健康な時にも地域の人たちに気軽に訪れてほしい――。そんな病院を目指す「ふくやま病院」が、“本を通して健康な地域づくりに役立つことができれば”と1階待合室に設置。患者さんはもちろん、誰でも自由に利用できます。

まちライブラリー@MUFG PARK(東京都西東京市)

 2023年6月、地域の新しい交流の場「MUFG PARK」に誕生。まちライブラリーは広大な芝生広場の一角にあり、ここは東京?と思うような眺望が楽しめます。館内でひときわ目を惹くのは、高さ3.5m、長さ38mの本棚!

ISまちライブラリー@奥多摩・鳩ノ巣(東京都西多摩郡奥多摩町)

 個人宅の離れを改装。山と渓谷を望める自然豊かなライブラリーです(写真は本とバーベキューイベントの様子)。星空のもとで宇宙を語る会、アウトドア読書などのイベントも。

まちライブラリー@四谷陽運寺(東京都新宿区)

 東海道四谷怪談で有名なお岩さんをお祀りするお寺にあるまちライブラリーには、住職、副住職やその家族、参拝者が持ち寄った本が並びます。写真は、本を持ち寄って住職の話を聞くイベントの様子。

とんだばやしMikoまちライブラリー(大阪府富田林市)

 2018年3月開設。8歳の男の子(当時)が家の前で始めた手作りライブラリー。

▲ライブラリーは、僕が木を切ったりペンキを塗ったりビス打ちをしたりして手作りしたものです。子どもの本、英語の本、僕の作った本、大人向けの本もあります。外に設置してあるので、いつでもだれでも自由に本を借りられます!(返すのはいつでもOK)

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