大人気の『ハリー・ポッター』シリーズをはじめ、西洋ファンタジー作品には魔法が当たり前のように出てきます。日本の漫画やアニメ、ゲームにも魔法が出てくる作品はたくさんありますね。今ではすっかりお馴染みとなった魔法の世界は、いったいいつから存在しているのでしょうか。その歴史を遡って、不思議な世界のルーツを探ってみましょう!
「魔法」とは、人間の力ではできない不思議なことを行う術のことです。不思議な力を操る人物は、人類の歴史が記録として残るよりもずっと前から世界中に存在していました。日本でも、邪馬台国の女王卑弥呼は、神の声を聞いて国を治めたと言われていますね。
それらの人物の中で、現在の魔法の源流、「魔法使い」の祖と考えられているのは、紀元前7世紀頃の古代ペルシアでゾロアスター教を創始した、預言者ゾロアスターです。ゾロアスター教の神官は、「magi(マギ)」と呼ばれており、これが英語で魔法を意味する「magic(マジック)」という言葉の語源になっています。
ゾロアスター教は、キリスト教にも影響を与えており、聖書にはイエス・キリストが誕生した時に、東方から3人の賢者が祝いに訪れたとあります。これらの賢者がゾロアスター教のマギだったとされています。聖書に書かれたことで、マギが魔法使いを意味する言葉として使われるようになっていきました。
キリスト教は、地中海全域を支配したローマ帝国の国教となり、急速にヨーロッパ全土に広がりました。キリスト教が広まる以前、ヨーロッパ各地では、それぞれの民族がいろいろな神々を信仰していました。ですが、キリスト教は唯一絶対の神を信じる一神教であり、他の神の存在を認めていません。そのため、布教の邪魔になる、キリスト教の神以外の神々への信仰は異端であり、怪しい術を使って人々を惑わすものだと考えたのです。
それらのうち、現在の魔法とのつながりが深いのは、イギリスやアイルランドに住んでいたとされるケルト人が信仰していた「ドルイド教」です。ケルト社会は、世俗の権力を握る王と、祭祀を司るドルイド教の神官によって治められていました。5~6世紀頃のケルト社会を舞台とする英雄譚『アーサー王伝説』には、ドルイド教の神官がもとになったという魔法使いマーリンが出てきます。マーリンは、歴史上最も有名な魔法使いと言われ、現在まで続く魔法使いのイメージの原型となっています。
現代では、魔法と科学は正反対のものだと思われていますが、かつてはそうではありませんでした。中世のヨーロッパ社会では、キリスト教を信仰せず、異端の怪しい術を使って人々に害を及ぼす者を「witch(ウィッチ)」として迫害しました。日本語では「魔女」と訳しますが、「witch」には男女の区別はなく、物語に登場する悪い魔女や魔法使いのイメージはこの頃に形成されたものです。
その一方で、他の物質から金を作り出すことや不老不死となることを目指す「錬金術」は、学問として研究されていました。また、天体の動きで人や国の未来を予想する「占星術」の研究も盛んでした。これらは現在の科学的な研究とも深く関わっていて、錬金術は化学や医薬学、占星術は天文学を発展させました。
魔法と科学は、もともとはっきりと分けられてはおらず、「高度に発達した科学は魔法と区別がつかない」とも言われます。例えば、今では当たり前になったインターネットでのやりとりも、昔の人からすると魔法のように思えるでしょう。しかし、研究が進むにつれて、それまで魔法と考えられていた現象が科学的に説明できるようになり、魔法が科学に変わっていったのです。
呪文や杖で魔法を使い、箒で空を飛ぶ……そんなイメージの由来は?
呪文とは、不思議な力に働きかけて効果を得るために唱える言葉で、決まった言葉で決まった効果が得られるようになっているものが多いです。魔法を使う時に呪文を唱えるのは、魔法使いのもとになった古代の神官たちが、神への祈りを唱えていたことが由来だとされています。
有名な「アブラカダブラ」という呪文は、古くから病気を治したり災いから身を守ったりするために使われていました。最古の記録は13世紀の医学書で、マラリアの治療法として登場します。「アブラカダブラ」を1文字ずつ減らしながら最後の1文字になるまで繰り返し書くと、逆三角形に文字が並びます。これをお守りとして身につけると病気を追い払うことができる、とされていました。
魔法使いの道具と言えば杖。不思議な力や呪文の流れを導くために使われています。西洋だけではなく、東洋にも共通するイメージで、仏像なども錫杖を持っています。杖は年老いた人が使うことから、賢者や知恵の象徴となったのだと言われています。
西洋の魔法使いの杖の材質は木で、木の種類によって様々な特徴を持つとされています。これは魔法使いのルーツのひとつであるドルイド教が由来です。ドルイド教は、自然の力、中でも樹木を崇拝していて、木に特別な力を見出していました。樹木暦、それぞれの季節に木の名前をつけたカレンダーを使って儀式などを行っていたそうです。
魔女や魔法使いのイメージの大半は、中世のヨーロッパで形成されたものです。魔法と箒が結びつけられるようになったのもその頃で、15世紀の本に箒に乗った魔女の姿が描かれています。当時の人々にとって魔法を使う一番身近な存在は、怪しい術を使うとされた「魔女」でした。「魔女狩り」によって魔女だと通報され、処刑された人々は数万人にも上り、その多くが社会的な立場の弱い女性でした。箒は女性の象徴であり、女性が日常的に使う身近な道具を、魔女は怪しい道具にしてしまうのだ、と考えられたのです。
また、土地の神々を信仰していた人々が箒にまたがって飛んだり跳ねたりして豊作を祈願しているのを、キリスト教徒が見て、邪教の呪いのダンスだと思い、魔女のイメージと結びついたのだという説もあります。
空を飛ぶというイメージは、魔女は薬草の知識を持っているとされたことからきています。薬草として使用されていた植物の中に麻薬の成分が含まれるものがあり、浮遊感を抱いたからではないかと考えられています。
SEARCH
CATEGORY
よく読まれている記事
KEYWORD