2018年5月号 特集①
『ゾムツール』との出合い
イメージミッション木鏡社が誕生したきっかけは、会長の前畑謙次さんが海外製の科学のオモチャと出合ったことでした。プラモデルの会社の海外事業部で働いていた当時の前畑会長が、アメリカへ行った時のことです。日本にはない科学のオモチャをたくさん見て、とても驚いたそうです。「このすばらしいオモチャで、日本の子どもたちにも遊んでもらいたい」という思いから、会社を立ち上げました。
そのオモチャというのが『ゾムツール』です。ゾムツールは、ボール状の「ノード」と棒状の「ストラット」を組み合わせて遊びます。遊び方は、ノードの穴の一つに、ストラットを差し込むだけ。積み木やブロックに似ていますね。しかし、ゾムツールから生まれる形には、必ず算数・数学的な、あるいは科学的な意味があります。そこがこのオモチャのすごいところです。長方形や三角形、台形などといったシンプルな図形はもちろん、星や花に似せた形、雪の結晶、幾何学的な模様、DNAのらせん構造まで作り出すことができるのです。自然界に存在する形には、何かしらの規則性を見出すことができます。それを、ゾムツールを組み上げながら、手の中で再現していくのです。「砂場で夢中になって泥だんごを作った経験はないでしょうか。どうしたら丸くなるのか、いろいろと工夫したと思います。ゾムツールの魅力は、そんな泥だんご遊びに似ていると思います」と社長の前畑さんが教えてくださいました。ゾムツールで夢中になって遊んでいるうちに、同じ形の繰り返しであったり、一定の間隔を保っていたりという、規則性に気付くことでしょう。そこで「なぜだろう?」と思えた時、算数・数学や科学への興味の扉が開きます。実際に形として目の前にあるというのがポイントです。本の中だけではわからない空間の感覚を体験的につかむことができます。
難しいことは考えず、まずは思いのままに自由に組み立てることから始めてみましょう。
『ゾムツール』のここがすごい!
1 まず「ノード」がすごい!
ノードの穴の数は、長方形が30個、三角形が20個、五角形が12個の計62個です。そして、それぞれの穴に入るストラットの色は決まっています。
このノードは、自然界によくある数学的な構造体系に基づいて作られています。例えば、ノードの長方形に関係する数字は2です。長方形は2本の長い線と、2本の短い線、2本の*1対称線で成り立っているからです。同じように、三角形なら3、五角形なら5という数字と関連しています。この2、3、5は60の*2素因数です。ここで、先ほどの穴の数を思い出してください。
長方形 2× 30(個)= 60
三角形 3× 20(個)= 60
五角形 5× 12(個)= 60
すべて60になりましたね。ノードには自然界の秘密が隠されていました。
2 平面と立体がわかる!
自然界の規則に従って、平面も立体も作れてしまうのがゾムツールです。また、頂点(ノード)と辺(ストラット)で構成されるので、構造がよくわかる点も長所です。
例えば、まず、ゾムツールで正三角形を組み立ててみましょう。頂点や辺の数は簡単に数えられますね。
次に、3次元の世界を考えるために正四面体を組み立ててみましょう。頂点や辺の数はいくつですか?頂点、辺、面、表面積などから、正三角形との関連は見出せるでしょうか?皆さんなりの定義や法則を考えてみましょう。その中には、必ず自然界の法則に迫るものがあるはずです。いろいろな平面や立体を作って、頂点や辺を数えてみてください。教科書で学ぶよりも、より鮮明なイメージが得られるでしょう!
3 無限に広がる形!
ゾムツールはいろいろな形を生み出すことができます。前畑社長によると「ゾムツールは建築家がドームを設計する時の模型にも使われます。人が入ることができる規模の作品もありますよ」ということで、その可能性は無限大です。また、頂点と辺で構成されるので、4次元の世界を疑似的に表現することもできます。もちろん3次元の世界で4次元の立体を作ることはできませんが、頂点を一つ忘れるような角度から見た時に、まるで4次元の立体が再現できているように見えるのです。例えば、正四面体をある角度から見たら2次元の正三角形に見えるのと同じようなことが起こるのです。面白いですね!
*1鏡映対称の基になる線のこと。算数・数学における「線対称の対称の軸」をイメージしましょう。
*2ある整数の約数である素数のこと。
プラトンの正多面体を作ってみた!
正四面体、立方体(正六面体)、正八面体、正十二面体、正二十面体のことを、正多面体(あるいは*プラトンの多面体、プラトンの立体)と呼びます。すべての面が同じ正多角形で構成されていて、なおかつすべての頂点に接する面の数が等しい図形のことです。ゾムツールを使って、頂点と辺の数を調べてみましょう!
研究者はオモチャが大好き!
子どもから大人まで楽しめて、小学生から数学家、建築家、科学者、NASA(アメリカ航空宇宙局)までもが夢中になれるゾムツール。この画期的なオモチャを生み出した5人の開発者は、完成までに20年もの歳月をかけたそうです。「幾何学的な美しさ、数学は美しいという感覚は、学校の授業ではなかなか実感できないですよね。日本ではその魅力に気づかないまま、図形に苦手意識を持ってしまう子どもも多いと思います。とてももったいないことです」と前畑社長。
最近では、数学や科学、物理学といった理系分野とアートを結びつける動きが活発です。数学と芸術、音楽、科学との架け橋がテーマの国際学会「ブリッジズ会議」があり、そこでは毎回参加者たちによってゾムツールの独創的で美しい作品が組み上げられているそうです。ゾムツールの開発に関わった一人、マーク・ペレティエさんは、ゾムツール・アートを「凍れる音楽」にたとえたそうです。複雑に流れていく見えない音楽の一瞬を切り取って見せたのがゾムツール・アートというわけです。このように芸術的に理系分野をとらえてみるのも面白いですね。
前畑社長は「ゾムツールの開発者たちに負けないくらい、理系の研究者にはオモチャ好きが多いのですよ。権威のある大研究者であればあるほど、オモチャと科学のコラボレーションに目を輝かせながら純粋に開発に取り組んでおられます」と言います。研究者は、未知の物事に対する好奇心が極めて高く、新しいオモチャを考えることが大好きなのだそうですよ。面白いオモチャを作るために計算をしたり、プログラムを組んだりするのです。なんだか研究者のイメージが変わりますね。また、オモチャは研究も手助けします。ノーベル化学賞・平和賞を受賞したライナス・ポーリング博士は「ゾムツールは私のリサーチに役立ちます」と言ったそうです。ひょっとすると、理系の研究者にとって、オモチャは欠かせない存在なのかもしれません。
3 フィボナッチ数列の美しさ
取材では、こんなオモチャにも出合いました。その名も『フィボナッチツリー』。皆さんはフィボナッチ数列を知っていますか?イタリアの数学者レオナルド・フィボナッチが『算盤の書』で発表した、自然界の現象に現れる法則です。植物の葉の付き方、花びらの数などに、「0 1 1 2 3 58 13 21……」という数列を見出すことができます。この葉の付き方をオモチャにしたのが『フィボナッチツリー』です。竹とんぼのように手ですり合わせて動かすと、葉が開くようにオモチャが動きます。これがちゃんと数列に合致しているのです。数列を視覚的にとらえるだけでなく、オモチャを動かす時の気持ち良さも魅力です。何より自然界の不思議を体感することができます。これもまた、ゾムツールと同様、理系への好奇心を広げてくれるオモチャです。
「ワンダーシリーズ」で遊ぶ
イメージミッション木鏡社では、海外のオモチャを輸入するだけでなく、オリジナル商品の開発にも力を注いでいます。それが「ワンダーシリーズ」のオモチャたち。数学者や物理学者、建築家、デザイナーの第一人者と協力して開発して生まれた、質の高い物ばかりです。
例えば、有名な数学者の秋山仁博士と研究仲間の皆さんが発案した『ペンタドロンR』は、互いに鏡映対称(3次元で、ある図形と、その図形を平面鏡に映して現れる図形の対称性を示す言葉)となる雄と雌のパーツで構成されたオモチャです。これらのパーツを磁石の誘導に従って立体的に組み立てていくと、*立方体をはじめとする平行多面体を作ることができます。平行多面体とは、平行移動するだけで空間を埋め尽くすことができる凸多面体のことです。この平行多面体の元素(もとになる形)『ペンタドロンR』は、2007年に秋山先生たちによって発見されました。その理論や性質を理解することはとても難しいですが、『ペンタドロンR』で遊びながら体験的に知ることができます。
また、美しいアラベスク模様が施された『ジオボール』は、道具を一切使わずに、手だけで18の多面体を作ることができるオモチャです。このアラベスク模様は、アメリカ在住のジェイ・ボナーさんが考案しました。立体の頂点と面が引き立つように、よく計算して描かれています。「色や位置など、何度も相談しながら開発しました。視覚的な刺激はもちろん、手指を動かすことで脳の活性化にもつながりますし、もちろん立体の空間把握にも役立ちます」と前畑社長。インテリアとしても魅力的で、子どもから大人までが楽しめるオモチャです。ワンダーシリーズには、それぞれ学術的な解説がついているので、遊びながら「これはなぜだろう?」という疑問が浮かんだ時に参考になる点もいいですね。
カラフルで美しい科学のオモチャがたくさんあります。左の写真は、3つのキューブを使って1つの大きなキューブを作る『キューブキューブ』。素材にもこだわっています。
科学+オモチャの魅力
前畑社長をはじめスタッフの皆さんは、いろいろな教育の場で科学のオモチャが広まってほしいと願っています。保育園、幼稚園から、小学校、さらには高校まで、幅広く授業に応用できるが、“知育”のオモチャです。「初めは、単純にオモチャで遊んで楽しいという体験だけでいいと思います。その時の記憶が後々授業の内容と結びつくと、理解が一気に深まります。知的好奇心も増すことでしょう。そのお手伝いができればと思っています」と前畑社長。近頃では、学校の先生から「授業に使いたい」と問い合わせがあるケースも増えているそうです。皆さんの学校の授業でも、オモチャで遊びながら算数・数学や理科を学ぶ日がやってくるかもしれませんね!
陽の光を具現化したような美しいゾムツール作品。海外の学校では、数学や物理学などといった授業の他に、美術の授業でもゾムツールが使われているそうです。
*製品は立方体を組み立てることができる12個のパーツが1セットになっています。
手の中の宇宙で遊ぶ楽しさ自らの手で創造する喜び
今回は、前畑社長にオモチャの魅力と可能性について伺いました。
「イメージミッション木鏡社が取り扱う製品は、皆さん自らが形を作って、見つけていく創造するオモチャです。手の中でいろいろな形を生み出しながら、自然界の法則や宇宙の真理に近づいていける、そういった工夫が満載です。創造する楽しさを、ぜひ知っていただけたらと思います」と前畑社長が言うように、創造する作業はとても魅力的ですね。
数式や法則を、紙の上だけで暗記しようとすると難しいかもしれません。しかし、それが立体として目の前にあって、実際に確かめながら理解できるとすれば、その場では科学のオモチャが有効な手段として活躍してくれるでしょう。オモチャでなくても、例えば自分で紙に展開図を書き、それを切り抜いて組み立てながら空間的に把握すると、図形がより身近に感じられて得意になるかもしれませんよ。ぜひ挑戦してみてくださいね!