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2018年9月号 特集①

『バーチャル飛鳥京』これからの可能性

近年、全国各地で*AR(拡張現実)やVR( 仮想現実)などによって遺跡を蘇らせる取り組みが進んでいます。4 ・5ページで紹介した『バーチャル飛鳥京』もその一つですが、こちらは今後に向けてさらに面白い可能性を秘めているようです。今回は、そんな明日香村におけるVRの未来について、村役場の木治さんと榊本さんにお話を伺いました!

*現実世界にCGで作った別の情報を加えるARに対して、VRは時間や空間を超えてまるで現実世界のように表現する手法を指す。

明日香村役場 総合政策課
木治さん(左)・榊本さん(右)

明日香村の遺跡と復元

そもそも、なぜ明日香村ではVRでの復元が進んでいるのでしょうか?
木治さん「飛鳥京跡は、役場のすぐそばにあります。かつての政治の中心地で、飛鳥時代を語るためには欠かせない場所です。しかし、現状の遺跡は、水田の下に埋もれていたり、野原に基壇だけが復元されたりしています。これでは、見学に来ていただいた皆さんに、当時の様子がなかなか伝わりません」
榊本さん「役場でも、以前からこの課題を解決したいという思いがありました。教育の一環として明日香村を訪れる学校も多いので、子どもたちにも飛鳥時代を肌で感じてもらいたいですから」
そんな時に出合ったのが、CGによる遺跡の復元方法でした。
木治さん「遺跡の復元の方法にはいくつかあります。イラストや模型の他、実際に建築物を復元してしまうなどです。しかし、イラストや模型では、実際のスケールを体感することができません。臨場感が足りないですね」
現地を訪れ、直接そのスケールを実感した時の感動は、イラストや模型では味わえませんね。
木治さん「建築物を実際に建てる復元方法は、予算的にもなかなか厳しいです。さらに、CGと違い一度建ててしまうと容易に修正できない点も問題です。この先、新たな資料や遺跡が見つかったり、新しい学説が提唱されたりしたら、古い、誤った復元建築物が修正されないまま残ってしまいます」
明日香村には、景観を保護するための『明日香法』が制定されています。これによって、遺跡は破壊されることなく、基壇などの整備が進められてきました。住宅が建ち並ばない、整備された遺跡だからこそ、CGによる復元がぴったりだったのです。この復元CGを使って、VRコンテンツ『バーチャル飛鳥京』は誕生しました。
榊本さん「私は明日香村で生まれ育ちました。子どもの頃から変わらない景観が残っているのは、この村ならではだと思っています」

『バーチャル飛鳥京』では、甘樫丘から見える景色にCGを重ね合わせた様子も見ることができます。実際の日照条件を反映した影など、高度な技術が用いられています。整備された明日香村の遺跡だからこそ、比較的簡単に合成ができるのです。

テーマパーク・明日香村

木治さん「最初にCGでの復元に取りかかったのは、2005(平成17)年の川原寺跡でした。その後コンテンツを増やし、現在では6つのスポットでVR体験ができます。コンテンツは、専門家の方々の協力を得ながら、今後も増やしていく予定です」
建物の中に入っていくようなCGも実現予定だそうですよ。
木治さん「現在はタブレットだけの体験ですが、今後は薄型のゴーグルなどを着用しながら村中を回ってもらえるようになったらいいですね。よりリアルに復元CGと現実風景とをマッチさせ、GPSの位置情報とも連動させたいと考えています。村のどこへ移動しても復元風景が楽しめるようになれば」
榊本さん「バスで遺跡を巡りながら、昔の風景を見学できると楽しいと思います。村全体が一つのテーマパークのようになればいいですね」
木治さん「遠い未来には、ゴーグルなどの道具をつけなくても、その場に復元CGが現れる……などということが実現できたら嬉しいです」
それはとても楽しみですね!

教材としての可能性

明日香村の復元CGは、学校教材としても活躍中です。関西大学文学部考古学研究室の協力を得てまとめた解説書付きのDVDは、「飛鳥宮跡」「石舞台古墳」「水落遺跡と水時計」「飛鳥寺と飛鳥大仏」の4つのテーマが配布されています。DVDの映像は子どもたち向けでわかりやすい一方、解説書の詳細な内容、引用文献の豊富さも魅力です。
木治さん「多くの子どもたちに、明日香村の当時の姿を感じてもらえれば嬉しいです」

問い合わせ先
明日香村役場 総合政策課 TEL:0744-54-2001(代)

まだまだたくさん! AR・VRで歴史体験

●ストリートミュージアム

全国各地の城跡をVRで復元するアプリです。1つのアプリで複数の城跡を楽しめるのが特徴。石垣の上に、在りし日の建物が復元されます。現在の地図と古地図を切り替えられる機能もあり、周辺の歴史散歩が楽しめます。江戸城や松本城、安土城など11か所が収録されていますが、今後も増える予定のようです。

●歴なび多賀城

古代における東北の政治・軍事拠点だった多賀城跡を中心に、宮城県多賀城市内をナビゲートしてくれるアプリ。政庁正殿跡、廃寺跡で復元CGを楽しむことができます。他にも、建造物やキャラクターが出現するスポットがあるので、アプリ内で撮影してコレクションすると面白いですよ!

●AR長岡宮

京都府向日市内の4つの史跡エリア(朝堂院公園、大極殿公園、内裏公園、築地跡)で、ARやVRが楽しめるアプリです。平城京から遷都され、平安京に移るまでの間、政治の中枢だった都の雰囲気を感じてみましょう。