メタバースとは、インターネット上につくられた三次元の仮想空間のこと。利用する人は、パソコンやスマートフォンなどを使って、自分の分身である“アバター”を操作し、メタバースに参加します。そこでは、現実では実現不可能な体験ができたり、気軽にイベントに参加できたり、ショッピングが楽しめたり……。今、自分がいるリアルな世界とは異なる“もうひとつの世界”――それがメタバースです。広がり続けるバーチャルな世界をのぞいてみましょう。
メタバース(metaverse)は、英語の「meta(超越した)」と「universe(宇宙)」を組み合わせた造語です。
よく耳にするようになったのは最近のことですが、この言葉が最初に使われたのは30年以上も前のこと。アメリカの作家ニール・スティーヴンスンが1992年に発表したSF小説『Snow Crash(スノウ・クラッシュ)』の中で、初めて登場したと言われています。描かれるのは、仮想空間が現実に近い状態にまで進化した世界。人々はゴーグルとイヤホンを装着して仮想世界にアクセスできるという設定で、どんな姿かたちにもなれるアバターも登場します。
そんなにも前に、未来を予測したかのような小説が書かれていたとは驚きですね。そして、小説で描かれた夢の世界が今、現実のものになりつつあります。
メタバースはビジネスや教育など、様々な分野での活用が進んでいます(後述)。このように可能性が大きく広がった理由のひとつに、VR(Virtual Reality=仮想現実)の技術が進歩したことがあります。「仮想現実」とは“現実の世界とは別につくられた空間”のこと。メガネのようなゴーグル型の装置が開発され性能が大きく向上したことで、利用者はよりリアルな世界としてメタバースを楽しめるようになりました。
VRと組み合わせると、メタバースの体験はより豊かになります。VRゴーグルを使うと自分の動きをアバターに反映させることが可能に。VRの効果は、“まさに今、目の前で起きているようなリアルな感覚”だけではなく、そこに自分がいるという実感が伴うことにあります。利用者は「この空間の中に確かに自分が存在している」という没入感と臨場感が味わえ、メタバースの世界により深く入り込むことができるのです。
メタバースの市場規模はどんどん拡大しています。日本では、2021年度は約744億円だったのが、2026年度には1兆円を突破すると予想されています(民間調査会社の試算による)。コロナ禍によって、オンライン授業やリモート会議などが広まったことが市場拡大に拍車をかけたとみられます。実際に、どんな分野でどのように活用されているのかを見てみましょう。
メタバースにつくられた店舗で新しい購買体験ができます。利用者はアバターとなって、自宅にいながら実物そっくりに再現された売り場や大規模な店舗を訪問し、店員の説明を聞いて買い物をしたり、友達と会話しながら商品を選んだり……。店舗の広さや商品の陳列方法などは自由にコントロールできるので、空中に浮かんでいる洋服の中から好みのものをチョイス――なんてことがあるかも! 世界のどこからでもアクセスでき、営業時間を気にせず買い物ができます。
メタバース上のオフィスでは、例えば、リアルでは実現できない規模のプレゼンテーションや会議を行うことが可能。没入感が高く集中して参加できる他、アバター同士がコミュニケーションをとりながらスムーズに仕事を進めることができます。
現実世界よりも近い距離で音楽ライブやスポーツ観戦が楽しめ、より高い臨場感と迫力を堪能できます。また、チケットがとりにくい人気のイベントでも気軽に参加でき、会場まで移動する必要がないのも利点。
メタバース上の学校では、距離の制約を超えて多くの人が1か所に集まることが可能に。さらに、貴重な史料を間近で観察できる、珍しい自然現象を体感できる、安全に実験ができる、などのメリットが。現実の枠を超えた驚きの体験が学習効果を高め、より豊かな学びが得られます。
自分の身体能力に関係なく、自由に体を動かしたり、憧れのスタジアムやグラウンドでプレイしたりすることができます。夢のスポーツ体験が叶えられます!
ゲームそのものをプレイして楽しむのはもちろん、プレイヤー同士が集まって交流したり、イベントの開催場所になったり……。“メタバース上の居場所”としても注目が集まっています。
三越伊勢丹ホールディングスは、メタバースに伊勢丹新宿本店を再現し、自由に買い物ができるサービスを開始。利用者は、アバターとしてアプリ内の“仮想デパート”で洋服や雑貨、食品など幅広い品揃えの中から買い物を楽しめます。アプリ上で商品をクリックすると三越伊勢丹オンラインストアにつながり、実際の商品が購入できる仕組みになっています。
チャット機能を使って、友達や他の利用者と交流することも可能で、実在の店員を3Dスキャンして作成したアバタースタイリストが出迎えてくれるサービスも。担当者は「人とのつながりを感じられる、思い出に残る買い物体験を提供したい」としています。
N高等学校(以下N高、沖縄県)とS高等学校(同S高、茨城県)は、学校法人角川ドワンゴ学園が運営する通信制高校。両校では最先端のオンライン学習、メタバース授業が行われています。
生徒は自宅など様々な場所で専用のゴーグルを装着し、アバターを操作して授業を受けます。ゴーグルの中では教室全体(360度)の風景が見え、実際に教室にいる感覚で、アバターの他のクラスメイトと一緒に勉強に取り組みます。
N高とS高で履修可能なバーチャル授業は4925本(2023年6月現在)で、今後さらに拡大する予定。体験を伴う立体的で多様なカリキュラムを通して、効率的に教養や思考力、実践力を身につけることができます。
国際宇宙ステーション(ISS)での活動を体験できるメタバースもあります。実際の位置情報と連動させて、ISSから見える地球の様子などを再現。宇宙にいるような浮遊感や、ISSの船外活動を行っている感覚などを疑似体験できます。ISSがロケットとドッキングする様子を体験できるプログラムも計画中なのだとか。
実際には行けない場所に行けたり、普通なら体験できないことが叶えられたりする……。そんなメタバースを「誰もが当たり前に使う未来」は、すぐそこまで来ているのかもしれません。
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