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2019年4月号 特集②

数を減らす脊椎動物

 世界自然保護基金(WWF)は、2018年版『生きている地球(Living Planet)』において、44年の間に魚類、鳥類、両生類、爬虫類、ほ乳類などの脊椎動物の個体数が60%減少したことを明らかにしました。特に、淡水動物は個体数が80%も減少し、中でも中南米では90%近くも減ったという結果に。このままいけば、地球上の野生生物は、2020年までに現在の3分の2まで減ってしまう可能性があるそうです。こうした個体数の減少には、都市・観光地開発、乱獲、家畜による感染症などといった人間活動が大きく影響しています。

IUCNのレッドリスト

 国際自然保護連合(IUCN)は、世界の絶滅のおそれのある動物をリストアップした『レッドリスト(絶滅のおそれのある種のレッドリスト)』を発表しています。2018年11月時点で公開されている『レッドリスト』では、最も絶滅のおそれが高いカテゴリー「近絶滅種(CR)」「絶滅危惧種(EN)」「危急種(VU)」に2万6千種以上の野生生物が記載されました。特に、「近絶滅種」は、絶滅寸前の個体数が極めて減少している種。例えば、オーストラリアに生息するキタケバナウォンバットは、現在80頭ほどしかいないといいます。キタケバナウォンバットが数を減らした原因には、遺伝的変異や天敵の存在の他に、大規模な生息地の環境破壊や、干ばつ時の家畜との争いといった人間による影響もあげられています。一方で、捕獲数の制限や保護活動によって、危険レベルが低くなった種類もいました。私たち人間の活動次第で、種を絶滅の危機に追い込むことも、上手に共存することもできることを知っておきたいですね。

環境省のレッドリスト

 日本国内でもレッドリストが作成されています。この特集では、環境省のレッドリストに記載された野生生物たちを中心に紹介しています。 環境省では、日本に生息する野生生物について絶滅の危険度を評価し、リストにまとめています。2018年のレッドリストに記載された絶滅危惧種は、海洋生物版のリストとあわせて3731種です。中には、ニホンアシカのように絶滅調査が行われていない種、情報不足の種などもあります。

長谷川雪旦筆の『海驢』。ニホンアシカは、明治時代以降の乱獲によって大幅に数を減らした種です。約50年前に不確かながら数件の目撃情報が寄せられたため、環境省は正式に絶滅宣言をしておらず、リストも「絶滅危惧」となっています。

交通事故や感染症が原因にも ツシマヤマネコ

長崎県の対馬にだけ生息するツシマヤマネコ。環境省のレッドリストでは、ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高い「絶滅危惧ⅠA類」になっています。ツシマヤマネコは、額の縦じま、先の丸い耳、耳の後ろの白い斑点を持っています。胴長短足、太くて長い尾も特徴です。同じく絶滅危惧種である沖縄県のイリオモテヤマネコと、とてもよく似ています。日本に生息する野生のネコは、この2種だけです。ツシマヤマネコは、以前は対馬全島にいましたが、今は生息域が狭まっています。また、推定生息数は、1980年代の調査では約100~140頭だったのが、2010年代前半では約70~100頭になりました。ツシマヤマネコが数を減らしたのは、人間が仕掛けた罠にかかったり、交通事故にあったりしたためです。また、飼い犬に噛まれたり、イエネコからの感染症にかかったりすることも、減少の原因であることがわかっています。

保護活動が進む対馬の貴重な自然
 ツシマヤマネコは、約10万年前に当時陸続きだった大陸から渡ってきたと考えられ、 イリオモテヤマネコと同じくベンガルヤマネコの亜種(「種」の下の区分。種として独立させるほどではないが、変種とするには相違点が多い生き物)とされています。
 本土と離れている対馬では、このツシマヤマネコのように、昔大陸とつながっていたことを示す貴重な動植物が生息しています。ツシマジカ、ツシマテンなど対馬固有の生き物たちが、数多く生息しているのですよ。また、渡り鳥の中継地として、珍しい野鳥を観測できるのも特徴です。対馬では、こうした珍しい生き物たちの生息域を保護するため、またツシマヤマネコのような希少種を保護・繁殖するための活動が進んでいます。

産卵場所が減少 アカウミガメ

日本では、5~8月にかけて海岸の草原や砂浜との境界周辺に穴を掘り、その中に1回に70~150個の卵を産みます。産卵は年に1~5回であることが知られています。そのアカウミガメの産卵場所は、護岸工事や観光地化によって破壊され減少。他にも、騒音や光、ビニールゴミの海洋への投棄などの人間活動も影響して固体数を減らしているそうです。環境省はⅠA類ほどではないが野生での絶滅の可能性が高い「絶滅危惧ⅠB類」に指定しています。

藻場の減少や〝混獲〟が原因 ジュゴン

環境省が「絶滅危惧ⅠA類」に分類しているジュゴン。人魚伝説の由来になったともいわれている生き物ですね。明治時代には、奄美大島から西表島までの南西諸島で広く目撃されていたそうです。ところが、ジュゴンの好物であるアマモなどの海藻がしげる藻場が減ったこと、また混獲(漁業の網に意図せずかかること)などにより、個体数が減っています。

「野生絶滅」から保護活動へ トキ

環境省のレッドリストで「絶滅危惧ⅠA類」に分類されているトキ。1980年代、日本は野生のトキをすべて捕獲しましたが、この時すでに最後の5羽となっていました。そして、2000年代には日本産のトキは絶滅してしまったのです。トキは、明治時代に羽毛をとるために乱獲され激減しました。また、昭和以降、森林の伐採による繁殖地の減少、農薬の多用でエサとなる動物の減少などが原因となって、絶滅に追い込まれました。
一方、1990年代に中国から「友友」と「洋洋」のつがいを貰もらい受け、「優優」が誕生。人工繁殖に成功しました。そして、2015年1月1日時点では、飼育下には202羽のトキがいて、野生下でも139羽確認されています。計341羽にまで増え、野生のトキ同士の繁殖も進んでいるようです。

「害鳥」だったトキ
  トキは奈良時代の文献にも見られる、古くから知られている鳥です。肉が食べられていた他、羽は工芸品に使われていたそうです。羽は他にも、羽箒、布団、カツオ漁の疑似餌など幅広く使われていました。
   江戸時代まで、トキはよく見かける鳥だったようです。それどころか、田畑を踏み荒らす迷惑な「害鳥」でした。肉食が禁じられ鳥獣類が保護されていた江戸時代でも、ある地域では、あまりにトキが多くて困った人々が、幕府に駆除をしてほしいと懇願したほどだったとか。今では信じられませんね。そんなトキの数が激減した明治時代は、肉食が解禁されました。羽毛の需要も高まり、トキの乱獲が起こったのです。   

江戸時代に描かれた森もり立たつ之ゆきの『華鳥譜』の中で紹介されたトキ。羽根の色はもともと白色ですが、繁殖期には灰色に変色するのも特徴です。

     

人間活動によって絶滅しようとしている生き物

美しきハンターの危機 リカオン

アフリカに生息するイヌ科の肉食獣で、群れをつくって広範囲を移動しながら狩りをします。長い四肢と黒・茶・白の入り混じった毛色、凛とした表情が美しいハンター。高いコミュニケーション力を持ち、アフリカの肉食獣の中では最も狩りの成功率が高いといわれています。「保護区」に押し込められて生息域が狭まったり、飼い犬から伝染病をもらったりして激減。全体で7000頭未満と推定されているそうです。

難病と闘う「悪魔」 タスマニアデビル

黒い毛に覆われ、胸・腰のあたりに白い模様がある有袋類。現在はタスマニア島だけに生息していますが、以前はオーストラリア大陸にもいたといいます。その鳴き声や、動物の死体を漁る姿から「悪魔」にたとえられ嫌われてきたタスマニアデビル。家畜を襲う害獣として、フクロオオカミ(1936年絶滅)と共に駆除されてきました。現在は保護されていますが、近年は「デビル顔面腫瘍性疾患」という病気によって大幅に数を減らしています。

世界の嫌われものが… ホホジロザメ

映画『ジョーズ』で一躍世界に知られたホホジロザメ。捕食者として高い能力を持ち、人間が襲われることも珍しくありません。しかし、そんなマイナスイメージのせいで、フカヒレの採取だけでなく、スポーツとしての釣り、賞金目当ての乱獲が横行。実は絶滅が危惧されているのです。ホホジロザメ自身も好奇心が旺盛で、釣り具や漁船のモーターに近づきケガをすることも多いそうです。