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2019年10月号 特集②

文武両道実践校1 清風中学校・高等学校

毎年、国公立大学に250名近くの合格者を出す進学校でありながら、体操競技部、新体操部、バレーボール部などから多くのトップアスリートを輩出、生物部、電気部、鉄道研究部など、男子校ならではの多彩なクラブが名を連ねる文化部の活動も盛んです。中学校の85%、高校の60%の生徒がクラブに所属しており、日々、規則正しく文武両道ライフを送っています。
 平岡宏一校長に、「文武両道」を実現させる仕組みについて教えていただきました。

学校法人 清風学園 専務理事
清風中学校・高等学校 校長
平岡 宏一 先生

中・高の成績なんて……

 「中学、高校の成績なんてあてにならんなと思っています」
 文武両道を地で行った印象的な卒業生たちのエピソードをお聞きしていた時のこと。平岡校長は、最後にM君の話をして、愉快そうにこう締めくくられました。
 M君は現在31歳。中学時代、学業成績はまったく振るいませんでした。中学では剣道部に所属していましたが、「初段がとれたら辞める」と入部時に決めていたようで、中学2年で初段がとれたのを機にさっさと退部します。高校では、「バク転ができたらいいな」と新体操部に入部。そうして、高校2年でバク転ができるようになり辞めようとしていたところ、担任の先生に「最後まで続けたら、得られるものがあるぞ」と言われ、最後まできっちり続け、準レギュラーとなりました。学業では、3番目のコースに在籍してはいましたが、高校3年でそこでトップとなりました。その時、彼は人知れず「科学者になろう」と決意します。一浪後、神戸薬科大学に合格するのですが、生意気な言動がゼミ内で煙たがられたようで、高校にやって来て、かつての担任に相談します。担任は、「高校時代も部活をやり遂げられたやないか。一回変わることができたんやから、また変われるやろ」とアドバイス。その言葉に発奮したM君は、その後、薬剤師免許を取得し、東京医科歯科大学大学院で博士課程を修め、同大学の研究所助教を経て、今はコロンビア大学で教えるまでになっています。

文武両道を推奨する理由

 学業成績の振るわなかったM君に、顧問が「新体操部を辞めるな」と勧めたように、学園としては、学業とクラブ活動の両立を勧めています。クラブ活動をする中でしか育まれない、学業と同じくらい大切な力があると考えているからです。
 「いい大学を出て、いい会社に入れば安心」ではなくなった今、また、何か事が起これば個人情報などあっという間にさらされてしまう情報時代だからこそ、いかに、〝信用できる人〟であり続けられるかが問われていると言えるでしょう。どれだけ多くの経験を積み、その中から何を汲み取ってきたかが、その人の教養となり、人間力となっていきます。学園では、創立以来、「社会の全てから、安心と尊敬と信頼される人物になるという目標を実行させる精神力」清風魂と呼び、その体得のための教育を行ってきました。クラブ活動や学校行事は、その清風魂を育む大切な場として位置づけられているのです。
 また、新学習指導要領が掲げる「主体的・対話的で深い学び」からは、社会の構造ががらりと変わるこれからの時代には、一人で全て解決しようとするスーパーマンではなく、チームの一員として解決に向けて動ける能力が求められていることがわかります。グローバル化、少子高齢化の影響で、将来は、国籍、年齢、性別の異なる多様な人々と学び仕事をするシーンが増えていくでしょう。多様なメンバーの中には、きっと〝いけ好かない人〟もいることでしょう。あなたが、そんな〝いけ好かない人〟から批判されたとしても、それが妥当な批判であれば、冷静に受け止め自身をアップデートしていける力、コミュニケーションをとっていこうとする力が求められています。学園では、全教科の授業において、アクティブラーニングなど発展的な学びを実践していますが、クラブ活動以上に、チーム力コミュニケーション力を育むのに適した場はないと考えています。

文武両道実現の仕組み

 清風中学校では、日常生活を記録するチェックカードを毎日提出させるなど、細やかな生活指導を行っています。学習状況や、睡眠時間、日々の悩みなどが書き込め、教師らは、それら一つひとつに目を通し、勉強のやり方や生活習慣の改善方法などアドバイスを記入して返しているのです。そうしてクラブ活動がライフサイクルに組み込まれる頃には、「勉強がしんどくなったから、クラブを辞める」といった発想はなくなっているといいます。校長も、「うちの子は途中で辞めません」と胸を張ります。
 また、頭髪検査や携帯電話の禁止など校則を設け、マナー・しつけを大切にしていることも、文武両道の実現に一役買っているようです。ここ数年、入学前の説明会で、校則の意義をきちんと話すようにしてきたところ、自らを律する心を身につけたいと望む生徒が自然と集まるようになり、学業とクラブ活動の習慣化をよりスムーズにしています。

仏教の教え —文武両道の要

 冒頭に登場したM君は、「清風は落ちこぼれの自分を見捨てず、最後までフォローしてくれた。そこは宗教教育を基盤とするこの学校ならではのもので、僕はそれに救われたんだ」と学園の指導を振り返るそうです。確かに清風学園の教育を語るにあたり、仏教の教えを省くことはできないでしょう。学園の教育方針に盛り込まれている自利利他という言葉は、「自分を高めていくことで、人のお役に立ちなさい」という仏教の教えの一つです。清風ではこうした仏教の教えを毎朝の朝礼などで生徒の心に浸透するよう、校長が様々なエピソードとともに語りかけているそうです。
 そうした教えは生徒らにしっかり浸透しており、高野山100キロ歩行富士登山などといった学校行事では、しんどい状況になると、生徒らは自然と疲れた友人に肩を貸し、荷物を持つといいます。
 清風学園に医師を目指している生徒が多いというのも、自利利他の教えの現れと言えるかもしれません。平岡校長がこんなエピソードを紹介してくれました。
 夏のある日、浪人中の卒業生の両親が校長を訪ねて来られました。お盆で親族が集まった際に、叔父さんが、医学部を目指し浪人中だった彼(甥)に、「医師の仕事は何かと大変だ。薬剤師の方がリスクが小さくて、リターンは大きいぞ」と薬学部の受験を勧めたところ、「僕は医者になって金儲けしようなんて思っていない。地方で難病で苦しむ人たちに寄り添うために医者になりたいんだ。叔父さんとは価値観が違う」と答えたというのです。ご両親は、「私たちにはこんな教育はできなかった」と、わざわざ学校までお礼を言いに来られたのです。
 「漠然としていますが」と前置きしつつ、平岡校長はこんなことを教えてくれました。
 「M君にしても、この医学部を目指している彼にしても、在学中、クラブ活動や学校行事に積極的に参加していました。そんなふうに気持ちが学校の方に向いてる生徒というのは、学業の方も後々なんとかなることが多いんです」。
 校長に清風学園に入学してもらいたい生徒像を尋ねると、「自分の心を成長させたい子」との答え。文武両道教育の要を成すのは、「心」であることはまず間違いなさそうです。

文武両道実践校2 星野学園中学校(中高一貫校)

 星野学園中学校のルーツは、1897年(明治30年)に開かれた「星野塾」という私塾にあります。創立者・星野りちの「誰もが公平に知識や技能習得の機会を得るとともに、よき人格の育成を目指す教養教育」との理念は、創立123年目を迎えた今も、「クラブ活動や学校行事を勉強と同じくらい大切にする校風」として受け継がれています。入学時より大学受験を見据えた学習サポートを実施するとともに、全校生徒のクラブ加入、学校行事に真摯に取り組む姿勢を大切にしています。伝統校にてぶれることなく継承されてきた「文武両道」教育の魅力に迫ります!

学校法人 星野学園
理事長星野学園中学校校長
星野 誠 先生

失敗は成長のチャンス。寛容の精神で、温かく見守る

 創立者の理念にならい、「若者には失敗を恐れずに何事にも全力でチャレンジしてほしい」と考える星野学園には、生徒の失敗を成長の好機と捉え、温かく見守り支援していく寛容の精神の校風・風土があります。生徒に、学業はもちろんのこと、クラブ活動や学校行事などの学校生活の全てに積極的に参加するよう求めるのも、チャレンジの機会を与えたいとの思いからです。
 クラブ活動で、チームメイトや部員同士、同じ目標に向かって日々努力し、共に笑ったり泣いたりしながら過ごす日々は、間違いなく心も体も成長させてくれることでしょう。中高生が一緒に活動しているクラブもあり、縦の人間関係も意識したコミュニケーション力を育むことができます。
  また、学校行事では、自分の目で見て、実際に体験することを大切にしており、中学校で行くオーストラリア修学旅行(全8日間のうち4泊はホームステイ)や、高校で行くロンドン・パリ修学旅行がその代表例です。単なる物見遊山にならないよう、言語・文化・歴史といった諸領域を学習していきますが、多くの生徒は、「もっと勉強していけばよかった」という感想を述べます。学園では、この「勉強不足の自覚」までが「体験」の大きな効果だと考えています。この時の〝失敗〟をふまえ、生徒たちは、帰国後、これまで以上に熱心に勉強に取り組み始めるのですから……。他にも、体育祭、文化祭、合唱祭など中高一貫6か年を通した様々な行事に、生徒らは、学園の「まじめがかっこいい校風」のもと真摯に取り組むことで、大きく成長していきます。
 星野校長は、「そういった彼らの成長を見るにつけ、クラブ活動や学校行事は、学園が彼らに与えるべき重要な使命だと感じる」と話します。

習熟度別学習と個別指導

 学園では、受験も一つの成長の機会と捉え、中学、高校ともに習熟度別学習を実施しています。中学入試で「理数選抜クラス入試」と「進学クラス入試」の二つのコースの入試を実施し、試験の結果を反映して中1のクラスが決定しますが、中2からのコース移動も可能です。これは一人一人がわかる授業でしっかり学ぶことを大切にすればこそ可能であることです。また、納得いくまで学習できるよう補習や講習、朝自習、昼休みや放課後など個別指導の機会も多くあります。
 特に、高校3年次は、生徒と教員が「1対1」で勉強する機会が最も多く、教員は、受験に備え「個々の生徒の勉強」を、過不足なくサポートする役割に徹します。授業は演習形式が中心となり、「自ら問題に挑む」ことを最優先に、「志望校の過去問題を解き、教員に添削を受ける」という学習を繰り返します。この時、教員は、成績に一喜一憂するのではなく、卒業後の大学での研究の素地づくりを意識した長い視野で学習を見守り、自ら学ぶ姿勢を尊重します。

子どもの才能・能力をぐんぐん伸ばすには?

 「どういったお子さんに星野学園を志望してもらいたいですか?」と星野校長に尋ねたところ、「基礎学力と論理的思考力を兼ね備えた〝知性〟と、学習や部活動を継続していく〝意欲〟を持った子ども」との答え。いかにも星野学園らしい答えです。
  失敗も含んだ様々な体験、習熟度別学習、個別指導の徹底……と、学園の特徴的な指導内容は全て「一人一人を伸ばす」という目的に向かうものであり、知性と意欲はまさにその原動力だからです。事実、生徒が学習に集中するためのカギは何よりもまず「意欲」との考えから、目標設定とその基礎固めの大切な時期である中学2年次には、様々な職業講演会を、高校1年次には、社会人として活躍する卒業生によるガイダンス大学の教授による出張講義などを数多く実施、将来について考える時間と機会が豊富に設けられています。何より、生徒に、勉強だけでなく、クラブ活動と学校行事にも真摯に取り組むよう指導するのも、学校生活に前向きで、自分で「自分はがんばっている」と思える生徒こそが、実力を伸ばしていける生徒なのだという経験知があるからでしょう。
 最後に、星野校長から、保護者の皆さんにアドバイスです。「結果を求めすぎると、子どもはのびのびと取り組めません。一生懸命努力したのによい結果がでないことがあるのが現実です。どうかそんな時には、努力したプロセスを認めて、褒めてあげるようにしてください。そして上を目指し、また一歩を踏み出した時に褒めてあげてください。それがお子さんの才能や能力を伸ばすことにつながります」